賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
まだ、そんなことを言っている弁護士がいるの?専門業者によるクリーニング費用についての特約
以前のコラムでもお話しましたように、最近は、ほとんどの裁判がWEB会議や電話会議で行われるため、裁判所に行く機会が、少なくなりました。
6月から7月の1ヶ月間の私のスケジュールでは、合計13回WEB会議や電話会議による裁判があったのに対して、実際に裁判所に行ったのは4回だけでした。
そんな中、先日、ふと思ったのは、机に座ってパソコンに向かっている時間の多い弁護士にとって、実は、裁判所への行き帰りは、結構な運動になっていたのではないか、ということです。
重い紙の記録をもって、駅までの道や階段を行き来するのは、なかなかのエクササイズです。
もしかすると、裁判のWEB化が進めば進むほど、弁護士の体力は、落ちて行くのかもしれません。
さて、今回は、専門業者によるクリーニング費用についての特約のお話です。
先日、大家さんのAさんから、こんな相談を受けました。
Aさんは、自分が所有しているワンルームマンションの入居者Bが退去したので、敷金の精算をしましたが、その際、賃貸借契約書の専門業者によるクリーニング費用についての特約に基づいて、クリーニング費用3万円を差し引きました。
ところが、Bは、敷金からクリーニング費用3万円を差し引かれたことに納得せず、弁護士に相談し、その弁護士から、Aさんに対し、専門業者によるクリーニング費用についての特約は無効だから、敷金からクリーニング費用3万円を差し引くことはできないので、3万円を返還するように請求する通知が、内容証明郵便で届きました。
そこで、Aさんは、その弁護士に対し、AさんとBの賃貸借契約書の中の「専門業者によるクリーニング費用についての特約」を具体的に指摘し、この特約は有効であるから、3万円を返還しないという回答をしたそうです。
すると、その弁護士から、Aさんに直接電話があり、「このままだと裁判になり、3万円を返すことになりますよ。それでもいいんですか。」と言われたそうです。
相談に来られたAさんから、AさんとBの賃貸借契約書を見せてもらうと、特約として、退去時には、借主が、専門業者によるクリーニング費用3万円を負担することが明記されていました。
3万円という金額は、部屋の大きさや月額の賃料から見て、妥当な額だと思いました。
しかも、東京都内の物件であり、賃貸借契約時に仲介業者が入っていましたので、東京ルールに従って、専門業者によるクリーニング費用3万円は、本来、貸主が負担するものであるが、特約により借主の負担となることを書面で説明しており、その書面に、Bの署名・捺印がありました。
専門業者によるクリーニング費用の特約の有効性については、居住用建物の賃貸借であっても、これを有効とする裁判例が多数であり、無効であるとした裁判例は、少数です。
また、専門業者によるクリーニング費用の特約以外にも、鍵の取替費用や畳や建具の取替費用などについても、対象や金額が明確に記載されている場合には、その費用を借主に負担させる特約を有効とした裁判例もあります。
こうした裁判例からすると、本件のように、賃貸借契約書に、明渡し時に専門業者によるクリーニング費用3万円を借主が負担することが明記され、さらに、東京ルールに従って、特約により借主の負担となることを書面で説明し、その書面に、借主の署名・捺印があるような場合は、原則として、その特約は有効であるというのが、一般的な弁護士の認識だと思います。
Bの弁護士が、上記の裁判例を知らないはずがないので、もしかすると素人であるAさんが、面倒くさくなったり、怖くなったりして払うかもしれないと考えて、電話をしたのかもしれません。
そうだとすると、少しやりすぎのような気がします。
このコラムを読まれている皆さんも、相手方の弁護士から何か言われても、鵜呑みにしないように気をつけましょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。