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給湯器が故障したら、賃料は当然減額?!設備の故障と賃料の減額
今、世の中は、新型肺炎ウイルス問題で、株価の暴落、イベントやスポーツ大会の自粛、小中高の臨時休校など、騒然としています。もしかしたら、東京オリンピックも実施できないのではないかという話も出ています。次のコラムを書く頃には、新型肺炎ウイルスの感染がピークを越え、終息に向かう道筋ができていることを願っています。
さて、今回も、民法改正のアパートマンション経営への影響について、考えてみたいと思います。
前回までは、建物賃貸借契約の連帯保証人に関する民法改正のお話をしましたが、今回は、賃貸建物の一部滅失等による賃料減額についてお話しします。
たとえば、真夏に、賃貸建物の給湯器が老朽化により故障し、修理が完了するまでの10日間、お風呂やシャワーが使用できず、台所や洗面所の蛇口からお湯が出ないという状態が続いた場合、賃料はどうなるでしょうか。
このような賃貸建物の設備などの故障に関連する民法の規定としては、次の民法第611条があります。
1 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
この民法第611条は、なかなか使いにくい規定で、たとえ賃貸建物の給湯器が老朽化により故障し、修理が完了するまで10日間かかったとしても、簡単には賃料の減額は認められません。
まず、賃料の減額が認められるのは、賃借物の一部が賃借人の過失によらないで「滅失」したときです。
「滅失」というのは、あまり聞き慣れない言葉だと思いますが、火事で焼失した場合などが典型的な例ですので、単なる設備の故障や一時的な使用の障害があてはまるのか疑問があります。
しかも、この規定によると、単に賃料の減額「請求」ができるだけで、当然に減額となるわけではありません。
また、仮にこの規定を使うとしても、いくら減額するかの計算やその根拠も不明確です。
このため、この規定を使った賃料の減額請求は、あまりありませんでした。
これに対して、改正民法では、次のような規定が定められました。
改正民法第611条
1 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
この規定によると、まず、賃料の減額が認められるのは、賃借物の一部の「滅失」の場合だけではなく、「その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」でもよいので、単なる設備の故障や一時的な使用の障害の場合でも、この規定によってカバーされることになります。
次に、この規定では、単に賃料の減額「請求」ができるだけではなく、当然に減額となります。
もっとも、この規定には、いくら減額するかの計算やその根拠については、何も定められていません。
このため、最初に挙げたケースのような場合、賃借人が、「給湯器が10日間使えなかったから、賃料を〇〇円減額します。」と一方的に主張し、トラブルが起きることが予想されます。
こうしたトラブルを回避する対策として、契約書において、主要な設備の故障について、減額の割合や免責期間を予め定めておくことを勧めている管理会社等もあります。
例えば、給湯器が使用できなくなった場合は、使用不能期間の賃料の5%を減額するが、免責期間を7日間とするという規定を契約書に定めておくという方法です。
また、契約書に、この規定による賃料の減額を一定の範囲で排除する規定をおくという対策を打ち出している専門家も見受けられます。
私は、前者の方法、つまり、契約書において、主要な設備の故障について、減額の割合や免責期間を予め定めておくのが妥当なのではないかと思っています。その上で、免責期間中に迅速に対応して修理を完了すれば、賃料の減額もトラブルも避けられるのではないかと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。