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大家さんに再契約の義務あるか?定期建物賃貸借契約の再契約条項の効力
4月に入り、桜も満開となりましたが、かなり寒い日が何日かありました。こういう寒さを花冷えというのだと思いますが、今年の花冷えは厳しかったので、お花見をしていた人は、大変だったのではないでしょうか。
さて、今回は、定期建物賃貸借契約の再契約条項の効力のお話です。
私の知り合いの大家さんから、「定期建物賃貸借契約で部屋を貸しているが、間もなく契約期間が終了する。契約書には再契約条項があるが、必ず再契約をしなければならないのか。」という相談がありました。
建物賃貸借契約は、ほとんどが普通建物賃貸借契約ですが、最近では定期建物賃貸借契約も多くなってきています。
普通建物賃貸借契約は、契約期間が満了しても、入居者が契約の継続を希望して居住を続けると、ほとんどの場合法定更新となってしまいます。このため、大家さんは、契約の終了を希望しても、なかなか契約が終了せず、負担となることがあります。
これに対して、定期建物賃貸借契約は、契約期間が満了すると、契約の更新はなく、確定的に契約が終了する建物賃貸借契約です。
このように、定期建物賃貸借契約は、契約期間の満了により確実に契約が終了しますので、大家さんにとっては安心です。
一方、これから契約を締結する入居希望者にとっては、契約期間が満了すると必ず契約が終了する定期建物賃貸借契約というのは、かなり不安なものです。
たとえば3年契約の場合、3年後に自分がどういう状況にあるか確実に予測できる入居希望者はほとんどいません。そうすると、3年後に、やっぱりこの部屋に住み続けたいということもあり得るので、3年で必ず契約が終了し、出ていかなければならないという契約には躊躇するはずです。この結果、最終的に、入居希望者が契約に至らず、なかなか借主が決まらないということになりかねません。
そこで、定期建物賃貸借契約の場合、賃料を普通建物賃貸借契約より低く設定することによって入居者の募集をすることがあります。
既存の普通建物賃貸借契約について、定期建物賃貸借契約に変更してくれるなら賃料を下げてもいいという大家さんもいます。
賃料のディスカウント以外に入居者を確保する方法としてよく用いられるのが、賃貸借契約書に再契約条項を入れておくという方法です。
定期建物賃貸借契約は、契約期間が満了すると、契約の更新はなく、確定的に契約が終了する建物賃貸借契約ですが、再契約は更新とは異なり、一旦契約が終了した後に、改めて新しい契約をするものですから、再契約をすることは全く問題ありません。
また、再契約について予め賃貸借契約書の中に条項をおいて定めて置いた場合、その条項は原則として有効です。
再契約条項には、いろいろなパターンがあり、単に、「賃貸人は、賃借人から再契約の申し入れがあったときは、賃借人と協議の上、再契約をすることができる。」という緩やかな内容のものから、予め定めた「再契約拒否事由」に該当しないかぎり「再契約に応じなければならない。」という厳格な内容のものまであります。
「再契約拒否事由」としては、例えば、「賃料の滞納が2回以上あった場合」とか「賃貸借契約及び管理規則に違反する行為があり、賃貸人から3回以上書面による注意を受けた場合」などが考えられます。
「賃貸人は、賃借人から再契約の申し入れがあったときは、賃借人と協議の上、再契約をすることができる。」という緩やかな内容のものであれば、大家さんとしては、再契約に応じるかどうかは自由です。
これに対して、予め定めた「再契約拒否事由」に該当しないかぎり「再契約に応じなければならない。」という厳格な内容のものであれば、大家さんは、入居者が予め定めた「再契約拒否事由」に該当する行為をしない限り、原則として再契約をしなければなりません。
このため、大家さんは、借主が「再契約拒否事由」に該当しない予想外の行為を行っても、再契約を拒否できないおそれがあります。
そこで、大家さんが、賃貸借契約書の条項としては、「賃貸人は、賃借人から再契約の申し入れがあったときは、賃借人と協議の上、再契約をすることができる。」と記載しながら、「この書き方では、再契約をしてもらえないのではないか。」という入居者の不安を払拭するために、最初の契約締結時に、「大丈夫ですよ。必ず再契約しますから。」などと、その場限りの説明をすることがあります。
このような説明をすると、大家さんが再契約に応じなかった場合に、入居者とトラブルとなるのは当然です。
また、定期建物賃貸借契約は、必ず契約書の中に、「この賃貸借契約は契約の更新がなく、契約期間が満了すると必ず契約が終了してしまうこと」を明記しなければならず、また、契約の締結に当たって、事前に、「この賃貸借契約は契約の更新がなく、契約期間が満了すると必ず契約が終了してしまうこと」が記載された書面を、契約書とは別に入居者に対して交付して、説明をしなければなりまんが、入居者が大家さんの発言を録音していたりすると(最近は、こういうことがよくあります。)、これを証拠として、そもそも契約締結時に大家さん自身が定期建物賃貸借契約であることを否定していたので、賃貸借契約自体が定期建物賃貸借契約ではないと主張される恐れもあります。
私に相談した大家さんの賃貸借契約書を見せてもらったところ、「賃貸人は、賃借人から再契約の申し入れがあったときは、再契約をすることができる。賃貸人は、2回目以降の再契約には、応じないことができる。」と記載されていました。
これは、非常に問題のある書き方です。「再契約をすることができる。」という記載からは、再契約をするかどうかは賃貸人の自由であると解釈できますが、「賃貸人は、2回目以降の再契約には、応じないことができる。」という記載によると、賃貸人は、1回目の再契約に応じる義務があると解釈でき、矛盾した条項になっています。
このため、再契約を拒否した場合は、恐らく紛争となるでしょう。
定期建物賃貸借契約に再契約条項を入れる場合は、中途半端な書き方をしたり、安易な発言をしたりしないように、注意しなければなりません。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。