賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
民法改正は、正しく伝わっているか?~第8回(最終回) 賃貸人は、保証人に対して、一定の事項について説明義務がある!
仕事柄、不動産仲介業者の方とお会いする機会が多いのですが、皆さん、都心の中古マンションについて、「売り物が不足している。」、「売りに出てもすぐに売れてしまう。」、「かなり割高になっている。」などと言われます。コロナの救済融資の資金が、ジャブジャブと市場に流れ込んでいて、ミニバブル状態になっているようです。
これまでのコラムで、軽井沢などの別荘地への移住が増えていることや都心のオフィス賃貸物件の空室率が上がっていることなどに触れました。
こうした事情からすると、都心からの人離れが起きそうですが、都心の中古マンションの需要は別物のようです。
さて、民法改正についてのコラムの第8回目です。今回で、民法改正についてのコラムは、ひとまず終わりです。
今回の民法改正では、建物賃貸借契約における賃借人の連帯保証人を保護する制度がかなり新設されましたが、その一環として、賃貸人の連帯保証人に対する説明義務や連絡義務が定められました。
まず、保証人から、借主の家賃支払状況等に対して確認請求があった場合は、賃貸人は、遅滞なく説明しなければなりません。
これは、どういうことでしょうか。具体的なケースで考えてみましょう。
Bは、Aの所有するマンションの一室について建物賃貸借契約を締結して入居しました。Cは、上記の建物賃貸借契約の連帯保証人となっています。
Bは入居後、半年間は賃料を払っていましたが、その後賃料を払わなくなり、6か月間賃料を滞納しました。
この場合、Aは、連帯保証人のCに対して、Bの賃料の滞納を報告する義務はありませんが、CからBの賃料の支払い状況について問い合わせがあったときは、遅滞なくCの滞納状況について情報を提供しなければなりません。これは、あくまで連帯保証人から問い合わせがあったときの情報提供義務です。
このため、例えば上記の例で、AがCに対して6ヶ月分の滞納賃料の支払いを請求したときに、Cから、「もっと早く連絡してくれれば、Bに連絡して、6ヶ月分も滞納させなかった。6ヶ月分も滞納したのは、Aの連絡が遅かったせいだから、3ヶ月分しか払わない。」と言われても、これを認める必要はありません。
次に、借主が滞納家賃の分割払いを約束したにもかかわらず、分割払いの支払いを怠り、一括払いとなった場合には、大家さんは、一括払いとなったことを、一括払いとなったときから2か月以内に個人保証人に連絡をしなければなりません。
この連絡を怠った場合には、大家さんは、連絡をするまでの期間の遅延損害金を個人保証人に対して請求できなくなります。
これも、具体的なケースで考えてみましょう。
Bは、Aの所有するマンションの一室について建物賃貸借契約を締結して入居しました(賃料は月額10万円)。Cは、上記の建物賃貸借契約の連帯保証人となっています。
Bは入居後、半年間は賃料を払っていましたが、その後賃料を払わなくなり、6か月間賃料を滞納したため、滞納額は60万円となりました。
そこで、AとBは、この60万円を毎月3万円ずつ通常の賃料に上乗せして支払うことで合意しました。つまり、60万円の滞納額を20回の分割払いで払うことを約束したということです。
このような約束をする場合、借主が分割払いを怠らないように、この分割払いの支払いを1回でも怠ったら、分割払いの約束はなかったことになり、一括払いに戻ること(これを「期限の利益の喪失」といいます。)、また、その場合は、残金に14.6%の遅延損害金をつけることなどを、合わせて約束します。
AとBとの間でも、60万円の滞納額を20回の分割払いで払うこと、この分割払いの支払いを1回でも怠ったら、分割払いの約束はなかったことになり、一括払いに戻ること、一括払いに戻った場合には、残金に年14.6%の遅延損害金をつけることが約束されました。
Bは、この約束をした後、10か月間は、毎月13万円をAに支払いましたが、11か月目には、10万円の家賃だけ支払い、分割払いの滞納家賃3万円は支払いませんでした。
この結果、Bは、Aに対して、残金30万円を一括払いしなければならなくなり、また、この30万円には、年14.6%の遅延損害金をつけなければならなくなりました。
このような場合に、Aは、Cに対して、Bが約束を破ったので一括払いになったこと、つまり期限の利益を喪失したことを、その事実を知ってから2ヶ月以内に連絡しなければなりません。
そして、この連絡をしないと、Aは、Cに対して、連絡するまでの間の年14.6%の遅延損害金を請求することができなくなります。たとえば、Aは、Cに対して、3ヶ月後に連絡したという場合は、この3ヶ月の間の遅延損害金の請求はできなくなります。
さて、8回に渡って、昨年の民法改正のうち、建物賃貸借契約に関連する部分について、重要と思われる点を説明してきました。
理解していただけたでしょうか。
これまで説明してきたもの以外にも、細かいものとしては、大家さんの借主に対する損害賠償請求の時効期間の変更などがあります。
きちんと説明すると、ちょっと長くなるので、とにかく「民法改正後は、借主から明渡しを受けてから1年以内は時効消滅しない。」と覚えておいてください。
また、改正民法では、滞納家賃や、その事実を知ったときから5年間、もしくは家賃の支払い期限から10年間経過すると、時効消滅することになります。
通常は、大家さんが家賃の滞納を知らないなどということはありませんので、5年の時効期間の方が先に経過することになります。
なお、改正民法は、令和2年4月1日から後に締結された建物賃貸借契約に適用されることに注意してください。
では、次回からは、また最近起こったエピソードなどのお話に戻りたいと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。