専門家執筆Q&A
賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律
Q&A

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

賃貸経営に関する法律について、現在、賃貸経営を営まれている方はもちろんこれから賃貸経営を始めようとお考えの方に知っていただきたいポイントをわかりやすく解説しています。

賃貸経営に関する法律をQ&A形式で解説しています。

契約の更新

Q
賃貸借契約の契約期間について、何か法律上制限はありますか。
A
1.普通建物賃貸借契約について

普通建物賃貸借契約においては、契約期間の最短は1年と定められており、これより短い期間を定めた場合は、期間の定めがない契約とみなされます。
従って、普通建物賃貸借契約においては、たとえば契約書に契約期間を6か月と定めても効力が認められず、そのような契約は、期間の定めのないものとされます。
また、賃貸借契約の存続期間の上限は、民法第604条において20年と定められていますが、建物の賃貸借には、借地借家法が適用され、借地借家法は、「民法第604条の規定は、建物の賃貸借には適用しない。」と定めています。
従って、建物の賃貸借については、民法第604条は適用されず、20年を超える契約期間を定めても有効です。

2.定期建物賃貸借契約について

定期建物賃貸借契約においては、契約期間の短期及び長期のいずれについても、制限はありません。
従って、定期建物賃貸借契約においては、たとえば契約期間を1か月と定めても有効であり、また、20年を超える契約期間を定めても有効です。

Q
令和2年4月1日に施行された改正民法では、賃貸借契約の存続期間の上限が、50年になったそうですが、建物の賃貸借に影響がありますか。
A
影響はありません。

賃貸借契約の存続期間は、民法第604条で定められており、改正前の民法では、存続期間の上限を20年と定めていました。
改正民法は、この民法第604条の規定を改正し、賃貸借の存続期間の上限を50年としました。
しかし、建物の賃貸借には、借地借家法が適用され、借地借家法は、もともと「民法第604条の規定は、建物の賃貸借には適用しない。」と定めています。
従って、民法第604条は、もともと建物の賃貸借には適用されませんので、同条の改正は、建物の賃貸借に影響を与えません。

Q
普通建物賃貸借契約の場合、契約期間が満了すると、契約は終了しますか。
A
1.任意の終了または合意更新なら円満

例えば、契約期間が令和3年4月1日から令和5年3月31日までの2年間の契約普通建物賃貸借契約について考えてみましょう。
まず、借主が、契約の更新を望まず、契約期間の満了で借りている建物から出ていくと申し出た場合は、契約は令和5年3月31日で終了します。
また、契約の更新について大家さんと借主との間で合意できれば、この合意によって契約は更新されます。更新した契約内容は、大家さんと借主の合意内容によって決まります。もっとも、大家さんは、借主に契約内容の変更を強制することはできません。

2.大家さんが更新拒絶をしたいとき

大家さんが、契約を更新したくない場合、すなわち契約期間が満了したら借主に出て行ってもらいたい場合は、予め借主に対して、更新拒絶の通知をしなければなりません。この更新拒絶の通知は、契約期間の満了の1年前から6か月前までにしなければなりません。
上記の事例では、大家さんは、令和4年4月1日から令和4年9月30日までの間に、契約を更新しない、あるいは、契約条件を変更しなければ契約を更新しないという内容の通知を、借主に対してしなければなりません。この更新拒絶の通知をしないまま契約期間が満了すると、契約は法律によって当然に更新されてしまいます。これを、法定更新と言います。
しかし、更新拒絶の通知をしたからと言って、契約期間満了時に契約が当然終了するわけではありません。
大家さんが更新拒絶の通知をしたにもかかわらず、借主が契約期間終了時に建物に居座っているときは、大家さんは、借主に対して、速やかに異議を述べなければなりません。しかも、この大家さんの異議には、正当事由がなければなりません。
大家さんが異議を述べなかったとき及び大家さんが異議を述べたけれども正当事由がなかったときは、賃貸借契約は法律によって当然に更新されてしまいます。これも、法定更新です。
結局、大家さんが更新拒絶をしたくても、次の全部の条件がそろわなければ更新拒絶はできず、法定更新となってしまうのです。

  1. 所定の期間内の更新拒絶の通知
  2. 契約期間の満了
  3. 遅滞なく異議の申し立てをすること
  4. 正当事由

Q
普通建物賃貸借契約において、法定更新後に契約を終了させるにはどうすればいいですか。
A
1.法定更新になると契約期間はどうなるのか?

法定更新があった場合、建物賃貸借契約の内容は、契約期間以外は、更新前の契約と同じですが、契約期間だけは、期間の定めのないものとなってしまいます。つまり、法定更新後の建物賃貸借契約は、いつからいつまでという契約期間のない契約になるのです。

2.大家さんからの解約申入れの効力

このような期間の定めのない建物賃貸借契約は、大家さんの側からいつでも解約の申入れができ、大家さんから解約の申入れがあると、それから6か月経過後に契約は終了することになっています。
もっとも、この大家さんの解約申入れには正当事由が必要であり(借地借家法28条)、正当事由がなければ、解約申入れをしても契約は終了しません。

Q
正当事由とは何ですか。どんな場合に認められますか。
A
1.正当事由とは?

【Q 普通建物賃貸借契約の場合、契約期間が満了すると、契約は終了しますか。】で説明したように、大家さんの更新拒絶や解約申し入れが認められて、建物賃貸借契約が終了するには、大家さんに正当事由が必要です。
正当事由とは、分かり易く言えば、大家さんが賃貸中の建物を自ら使用しなければならない事情、すなわち「建物使用の必要性」です。
ただ、この場合の大家さんの「建物使用の必要性」というのは、文字通り自分で使わなければならない事情だけでなく、次のような事情も含みます。

  1. 貸している建物を自分や家族の住居などとして使用する必要がある。
  2. 貸している建物を事業のために使う必要がある。
  3. 貸している建物を建て替える必要がある。
2.正当事由の有無はどのように判断するのか?

まず、大家さんに、上記のような「建物使用の必要性」がなければなりません。大家さんに、「建物使用の必要性」がなければ、正当事由が認められることはありません。
次に、大家さんの「建物使用の必要性」と借主の「建物使用の必要性」と比較します。この比較によって、正当事由が認められたり、認められなかったりします。
第1に、借主の「建物使用の必要性」が、大家さんの「建物使用の必要性」より相当高い場合は、正当事由が認められる可能性は低いと考えられます。
たとえば、大家さんは、建物を建て直してより収益の上がる建物にしたいのに対して、借主は、その建物で商売をして生計を立てているというような場合です。
第2に、大家さんの「建物使用の必要性」と借主の「建物使用の必要性」の差がそれほど大きいとは言えない場合は、立退料の提供などによって正当事由が認められることがあります。
たとえば、大家さんは、建物が老朽化して危険になったので建て直したいのに対して、借主は、その建物で商売をしているが、他にも店舗を持っていて、他の店舗の売上が極めて多いというような場合です。この場合には、大家さんが、ある程度の金額の立退料を支払えば、正当事由が認められることがあります。このように、立退料は、大家さんの正当事由を補う材料として使われます。
第3に、大家さんの「建物使用の必要性」が借主の「建物使用の必要性」を上回っている場合があります。
例えば、大家さんが、災害にあって自分の家を失い、貸している建物以外に住むところがないのに対して、借主は、借りている建物に住んでいるが、他にも自分所有の建物があるという場合です。このような場合は、立退き料によって補わなくても、大家さんに正当事由が認められるでしょう。

3.契約締結や契約後の経緯も考慮される。

大家さんに正当事由があるかないかを決める場合には、建物の賃貸借に関する従前の経緯も考慮されます。
一定期間後に建て直す予定の建物を貸したとか家賃の滞納を繰り返しているなどの事情は、この建物の賃貸借に関する従前の経緯にあたります。従って、これらの事情があるときは、きちんと記録に残すことが必要です。
例えば、一定期間後に建て直す予定の建物を貸したときは、この事情を契約書に記載しておきましょう。
また、家賃の滞納を繰り返しているときは、何年何月の家賃を何日滞納したかが分かるような記録を残してください。
こうした契約書の記載や記録は、後で正当事由の判断のときに、大家さんにとって有利な事情になります。大家さんにとって有利な事情が多ければ、それだけ提供すべき立退料の金額も少なくてすみます。

Q
立退料の金額はどれくらいになりますか。
A
1.居住用物件の場合の立退料

普通のマンションやアパートのような居住用建物の場合には、借主は、どうしても今借りている部屋でなければならないということは、ほとんどありません。
従って、借主は、今借りている部屋の近隣に同様の条件の部屋を借りられれば、引越しの手間と時間と費用以外には、特に不利益はありません。
そこで、このような場合、裁判所は、新しい部屋を借りるための礼金、敷金、不動産仲介料、引越費用、家賃が増えた場合は、その差額の2年分程度の合計額を立退料としています。
1か月の家賃が10万円程度の部屋なら、100万円から200万円くらいでしょう。
もちろん、これは、大家さんに、1.貸している建物を自分や家族の住居として使う必要がある、2.事業のために使う必要がある、3.建て替える必要があるなどの事情があることが前提です。

2.事業用物件の場合の立退料

貸している建物が居住用の建物ではなく事業用の建物の場合には、営業補償などが加算されます。
借主が借りている物件で営んでいる事業の利益が多い場合には、立退料も極めて高額になりますので注意してください。

Q
法定更新を避けるには、どうしたらいいですか。
A
1.法定更新になると契約期間はどうなるのか?

【Q 普通建物賃貸借契約の場合、契約期間が満了すると、契約は終了しますか。】で説明しましたように、普通建物賃貸借契約では、大家さんが更新拒絶をしたくても、次の全部の条件がそろわなければ更新拒絶はできず、法定更新となってしまいます。

  1. 所定の期間内の更新拒絶の通知
  2. 契約期間の満了
  3. 遅滞なく異議の申し立てをすること
  4. 正当事由

また、【Q 普通建物賃貸借契約において、法定更新後に契約を終了させるにはどうすればいいですか。】で説明しましたように、法定更新後の建物賃貸借契約は、家賃などの契約内容はそのままで、契約期間だけ期間の定めのないものとなってしまいます。つまり、法定更新後の建物賃貸借契約は、いつからいつまでという契約期間のない契約になるのです。
この場合、法律の建前では、大家さんはいつでも、借主に解約申入れができますが、この解約申入れが認められるには、正当事由が必要です。
従って、大家さんに正当事由がなければ、いくら解約申入れをしても認められず、契約は終了しません。

2.法定更新になると大家さんはどんな不利益を受けるか。

法定更新になると、大家さんは次のような不利益を受けます。
まず、そもそも、法定更新になるということは、契約更新の時期を過ぎたということですから、契約書に更新料条項があれば、更新料をもらわなければなりません。
しかし、借主の更新料の支払義務は、建前上は契約更新の合意をした場合に発生するものです。法定更新では、この契約更新の合意があったとは言えないので、借主に更新料の支払義務が発生しない可能性があります。
現実に、このような考えから、法定更新の場合に、更新料の支払義務を否定した裁判例もあります。
次に、先ほど説明したとおり、法定更新の後は、契約期間の定めのない契約になってしまいます。契約期間の定めのない契約ということは、いつまで経っても、次の契約期間の満了が来ないということです。
たとえば、2年の契約期間の契約であれば、2年ごとに契約期間の満了がきますが、契約期間の定めのない契約では、何年たっても契約期間の満了は来ないのです。
そうなると、借主が5年住もうが10年住もうが、契約期間の満了による契約の更新はありませんので、借主に更新料の支払義務は発生しません。

3.自動更新条項で法定更新を回避できる。

賃貸借契約書につぎのような工夫をすると、法定更新は回避できるのです。
第○条 賃貸借期間は、令和3年4月1日から令和5年3月末日までとする。
2 前項の期間満了の6ヶ月前までに、当事者のいずれからも書面による更新拒絶の申し出がない場合には、本契約は更新されたものとする。この場合、更新後の契約条件は、特段の合意がない限り、契約期間を含め、すべて本契約の条件と同一とする。その後の期間満了の場合も、また同様とする。
この規定があれば、借主と改めて合意をしなくても、自動的に前の契約内容と同じ内容で、合意による契約の更新が成立するのです。この結果、大家さんは、更新時期が来る度に借主に対して更新料の支払を請求できます。