賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
サブリース会社の倒産~そのとき、大家さんはどう対応すべきか
2月も終わり、だんだんと暖かい日も増えてきています。
最近ネット上での新聞で、大家さんが大手サブリース業者を訴えたという記事が出ていました(2月22日朝日新聞デジタル)。
この記事によると、サブリース会社と大家さんとの契約書には「賃料は当初10年間は不変」と書いてあったにもかかわらず、サブリース会社が経営難を理由に賃料の減額を求め、大家さんが仕方なくこれに応じました。ところが、サブリース会社の業績が回復した後も、賃料を元に戻してくれないため、大家さんが、賃料の増額等を求めて訴訟を提起したそうです。このサブリース会社から同様の扱いを受けた他の大家さんも、訴訟を検討中のようです。
私は、このコラムで、前々から大手サブリース会社の強引な営業の危険性を書いてきましたが、いよいよ問題が噴出し始めたようです。
ところで、上記の記事(2月22日朝日新聞デジタル)の中に、サブリース会社の経営難という話が出てきましたが、サブリース会社が倒産してしまった場合、大家さんとサブリース会社や実際の入居者との関係はどうなるのでしょうか。
サブリース契約とは、まず、大家さんがサブリース会社に建物を賃貸し、さらに、サブリース会社が入居者に建物を転貸するという契約です。
大手のサブリース会社が行っているのは、まず、大家さんにアパートやマンションを建てさせ、その上で、そのアパートやマンションを一括して借り上げるというものです。
その際、「〇〇年一括借り上げ」「賃料固定〇年」「一括管理で手間要らず」などのうたい文句で、長期間の借り上げと一定期間の家賃保証をしています。
大家さんとしては、契約で保証された家賃が近隣の家賃相場と比べて適正で、契約どおり支払いが行われれば、空室リスクや煩雑な管理業務に悩まされることなく、一定の収入を得られるわけですから、大きなメリットがあります。
しかし、サブリース契約を結んでいる大家さんは、多額の借入をしてアパートやマンションを建てていることが多いので、当初の契約で保証された一定額の家賃が必ず入ってくることを前提として、借入の返済や諸費用の支払いの予定を立てています。
従って、上記の新聞記事の事例のように、家賃が当初の契約より減額されたり、サブリース会社自体が倒産してしまったりした場合には、この予定が狂い、深刻な問題となります。
まず、大家さんとサブリース会社との関係ですが、大家さんとサブリース会社との契約は、先ほどお話したとおり建物賃貸借契約ですから、サブリース会社が倒産して大家さんに対して賃料を支払えなくなった場合、大家さんはサブリース会社と賃貸借契約を続ける意味はないので、契約を解除することになります。この契約の解除は、サブリース会社の賃料不払いという契約違反を理由とする解除ですから、大家さんからサブリース会社への一方的な通知で行うことができます。ただ、これによって、長期間の一括借り上げや家賃保証は、実質的に消滅します。
次に、大家さんと入居者との関係ですが、サブリース会社は大家さんとの建物賃貸借契約に基づいて建物を入居者に転貸しているのですから、大家さんとサブリース会社との間の建物賃貸借契約が解除によってなくなれば、サブリース会社は、入居者に建物を貸す権利がなくなります。その結果、サブリース会社と入居者との間の転貸借契約も効力を失い、入居者は建物から退去しなければならなくなるのが原則です。例えて言うと、大家さんとサブリース会社との契約が親亀であり、サブリース会社と入居者との契約が子亀になりますので、親亀がひっくり返れば、親亀の上に乗っている子亀もひっくり返るのです。
もっとも、大家さんとしては、たとえサブリース会社が倒産しても、入居者に出て行ってほしいなどとは思わないでしょう。むしろ、そのまま借り続けてもらいたい、賃料を払ってもらいたいと思うでしょう。
そこで、サブリース会社が倒産したとき、通常大家さんは、自分が賃貸人の地位を引き継いで入居者と直接契約したりすることを希望すると思われます。
しかし、サブリース会社が倒産したような場合は、かなり混乱が生じますので、契約の解除や入居者との直接契約がスムーズに進まないこともあります。そうなると、入居者が、倒産したサブリース会社の預金口座に賃料を振り込み続けたり、逆に、入居者が誰に賃料を払ってよいか分からないとして、賃料の支払いを留保したりする状況が発生するかもしれません。このような状況が継続すると、大家さんとしては、借入の返済をしなければならないのに、賃料は入ってこないということになってしまいます。
こうした場合の対策としては、大家さんが、入居者に対して、直接賃料を請求することが考えられます。大家さんの中には、「入居者と契約しているのはサブリース会社なのに、私が直接請求できるのですか。」と思われる方もいらっしゃると思いますが、民法は、転貸借について、賃貸人(大家さん)が、転貸人(サブリース会社)を飛び越して、転借人(入居者)に直接賃料を請求することを認めています。
ただし、大家さんが入居者に請求できる賃料の金額は、あくまでサブリース会社と入居者との賃貸借契約上の賃料額に限られます。また、入居者は賃料を二重に支払わなければならない理由はありませんから、すでに入居者がサブリース会社に賃料を支払っていた場合には、原則として、大家さんは入居者に賃料を請求することはできません。
入居者がサブリース会社に賃料を払ってしまった場合には、大家さんはサブリース会社から取り戻すしかありませんが、倒産してしまっているサブリース会社から全額回収できる可能性は少ないでしょう。
私も、サブリース会社が倒産した事案は何度か取り扱っていますが、大家さんから依頼を受けた後は、直ちに大家さんの代理人としてサブリース会社に解除通知を送るとともに、全入居者に宛てて通知を送り、事態を説明した上で、大家さんの口座に家賃を振り込むようお願いしています。こうした対応は、法律的な判断も必要となり、また、入居者も弁護士の説明であれば納得する傾向にありますので、大家さん自身で処理するのではなく、弁護士に依頼した方がいいでしょう。
これまで私が問題視してきたサブリースの事案は、大手のサブリース会社についてのものです。こうした大手サブリース会社では、恐らくサブリース会社が倒産するという問題よりも、冒頭に紹介した新聞記事のように、サブリース会社が強引に賃料の引き下げを迫ったり、一方的に撤退するという問題が起きてくるでしょう。
いずれにせよ、サブリース会社を利用されている方は、万が一のときに備えて、対策を考えておく必要があると思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。