賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
連帯保証人を巡る2つの話題(人選は慎重に、請求は迅速に!)
梅雨のはっきりしない天気が続いていますが、雨の降らない日には、東京では35度近くまで気温が上がっています。梅雨のさなかでもこの気温ですから、梅雨明け後の猛暑が思いやられます。
さて、今回は、連帯保証人の話題を2つ紹介します。
1つ目は、役に立たない連帯保証人の話です。
このコラムを読まれている皆様は、よくご存知かもしれませんが、建物賃貸借契約の連帯保証人とは、入居者が契約に基づいて大家さんに対して負う責任を、入居者に代わって負ってくれます。ただの保証人ではなく、「連帯」保証人ですから、入居者と連帯責任を負います。これは、入居者と連帯保証人は、原則として同じ責任を負うということです。
従って、財産や収入のある人に連帯保証人になってもらえば、入居者の家賃滞納などがあっても、連帯保証人から支払いを受けることができます。
このように、連帯保証人は、いざというときにお金を請求する相手ですから、その人選は慎重に行わなければなりません。
ところが、最近こんな役に立たない連帯保証人の話がありました。
都心の一等地に比較的広いマンションを賃貸していた大家さんから、入居者が4ケ月家賃を滞納したので、契約を解除したいという相談を受けました。
賃貸借契約書を見ると、連帯保証人欄にはきちんと住所と名前が書いてあるので、大家さんに、「連帯保証人はどんな方ですか。」と聞くと、「よくわからない。」という答えでした。
何日かして、大家さんから電話があり、「とんでもないことが分かりました。契約書に署名していた連帯保証人は、実は名前を貸しただけで、入居者とは何の関係もなく、財産も何もない人でした。既に、何人もの大家さんから訴えられ、間もなく自己破産すると聞きました。」と落胆した様子で話されました。
おそらく大家さんは、契約時の連帯保証人の確認を不動産仲介業者に一任したのでしょう。そのため、私から、「連帯保証人はどんな方ですか。」と聞かれ、心配になって調べたところ、上記の事実が発覚したのです。
しかし、そうは言っても、賃貸契約書を見ると、2社の不動産仲介会社がこの契約に立ち会っており、大家側の仲介会社がしっかりしていれば、このような名義貸しの連帯保証人を見逃すはずはありません。もしかすると、この仲介会社は、契約を急ぐあまり、きちんと連帯保証人の身元や入居者との関係を確認しなかったのかもしれません。
名義貸しの連帯保証人は、よく耳にしますので、注意が必要です。
このような事態を防ぐためには、入居者はもちろんのこと、連帯保証人についても、印鑑証明書と顔写真付きの身分証明書で本人確認をし、また、勤務先が分かる書類(社員証や源泉徴収票)で収入確認をしなければなりません。
その上で、入居者と連帯保証人の関係についても、きちんと聞き取り、できれば裏付け資料を提出してもらう必要があります。
2つ目は、裁判で責任を軽くしてもらった連帯保証人の話です。
先ほど説明しましたように、入居者と連帯保証人は、原則として同じ責任を負います。ですから、例えば、入居者が5年間賃料を滞納すれば、連帯保証人も5年間分の賃料を支払わなければならないのです。
しかし、よく考えると、5年間も賃料の滞納があったとすると、その間、大家さんは何をしていたのだろうかという疑問がわきます。
裁判所では、3ケ月の家賃の滞納があると賃貸借契約の解除を認めます。ですから、3ケ月分の家賃の滞納があれば、すぐに解除して建物の明渡しを求める訴えを起こすことができるのです。もちろん、大家さんにすぐに契約を解除する義務や訴えを起こす義務があるわけではありませんから、何もせずにある程度の時間が過ぎても問題はありません。しかし、それが4年とか5年になると、さすがに大家さんも怠慢ということになります。
連帯保証人は、賃料の滞納が発生していることを知ったところで、せいぜい入居者に「何とかしろ。」と言えるだけで、この事態を解決する法律的な権利はありません。結局、連帯保証人は、家賃の滞納が始まったら、大家さんに頑張って家賃を回収してもらうか、入居者を追い出してもらうしか、責任の拡大を防ぐ方法がないのです。
そこで、大家さんが怠慢で長期間何もしなかった場合、そのしわ寄せを全部連帯保証人に負わせるのは不公平ではないかという考えが当然出てきます。
この考えを推し進めると、大家さんが、賃貸借契約を解除して建物の明渡しを求める裁判を起こすことができるようになったのに、その後長期間にわたって何もしなかったときは、大家さんの連帯保証人に対する請求を制限するべきだというということになります。
最近の高等裁判所の裁判例では、こうした考えから、連帯保証人の責任を制限したものがあります。
具体的には、大家さんが、賃貸借契約を解除して建物の明渡しを求める裁判を起こすことができるようになったのに、その後5年間も明け渡しを求める裁判をしなかったときは、大家さんは、連帯保証人に対して、2年分の賃料の支払いを請求できるが、残りの3年分の賃料を請求できないとしたのです。
この裁判例の事案はかなり複雑だったので、単純には言えませんが、少なくとも、大家さんは、賃貸借契約を解除して建物の明渡しを求める裁判を起こすことができるようになったら、長時間放置せずに速やかに実行することを心がけるべきです。
そうしないと、連帯保証人に対する請求を制限されるおそれがあるのです。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。