賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
孤独死は、実はびっくりするほどある!高齢入居者の孤独死対策
先日ゴルフに行ってきましたが、天気の良い日だったので、大量の花粉が舞っていたらしく、花粉症に悩まされました。
目が痒い、鼻が詰まる、咳やくしゃみが出るなどの症状が続き、ゴルフの翌日電車に乗っていても、時々咳やくしゃみが出ていました。
新型コロナウィルスの感染が始まったころは、電車の中で咳やくしゃみをしていると、周りから人がいなくなったものですが、今ではそんなことはなく、誰もあまり気にしないようです。
もう2年以上コロナ対策に追われ続けているため、コロナ疲れで、いちいち反応しなくなったのかもしれません。
さて、今回は、孤独死対策のお話です。
先日、新聞に、こんな記事がありました。
関東のある県の警察署勤務の警察官が、孤独死した遺体の搬送業務を特定の葬儀社に斡旋し、その見返りとして現金や商品券を受け取ったとして、収賄罪で有罪判決を受けたというものです。
実は、私の知り合いにも葬儀社があるのですが、その会社でも、警察署の依頼を受けて孤独死した遺体の搬送を行っていましたが、その数はかなり多いのです。
私は、その会社から、ある事件の依頼をうけて訴訟手続きを行ったことがあり、その際に、事件の審理に必要な証拠として、その会社が扱った孤独死の遺体搬送や葬儀の資料を見せてもらったことがあるのですが、正直、「こんなに多いのか!」と驚いたことがあります。
ネットで調べてみると、東京23区における2019年の65歳以上の高齢者の孤独死の数は、約4000人というデータが出ていました。もちろん、孤独死するのは65歳以上の人だけではありませんので、東京23区では、おそらく5000人前後の人が孤独死しているのではないかと思います。
もちろん、この5000人が全て賃貸住宅に居住しているわけではありませんので、賃貸住宅内における孤独死者数の正確な数はわかりません。
仮に5000人の約半数が賃貸住宅に居住していたとすると、東京23区では、1年間に約2500人が、賃貸住宅内で孤独死をしていることになります。
この数は、これからも増えていくと思われますので、賃貸経営をしている大家さんにとって、この賃貸住宅内での孤独死の問題は、徐々に身近に迫ってきていると言えます。
賃貸住宅内で孤独死が起きた場合、その部屋で人が亡くなったというだけで、当分の間、通常の賃料では入居者を見つけることができなくなります。
さらに、遺体の発見が遅れた場合には、部屋の損傷が大きくなり、相当なリフォームが必要となります。
2021年10月のコラムで、「裁判所は、賃借人が居室で病死した場合には、死後に発生した居室の汚損や居室の賃料の喪失ないし下落による損失について、原則として相続人の責任を認めないと思われます。」と書きました。
これは、私の個人的な意見ではなく、裁判所の判決に基づく意見です。
ですから、賃貸住宅内の孤独死(病死)の場合、賃料収入が得られなくなることによる損害や多額の原状回復費用が掛かることによる損害は、原則として病死した賃借人の保証人や相続人に請求することはできません。
こうした知識は、大家さんや賃貸管理会社にも、徐々に広がってきていますが、未だに上記の損害賠償を、病死した賃借人の保証人や相続人に請求してくる事案が見られます。
先日相談のあった事案は、賃貸住宅内で孤独死(病死)があり、遺体の発見が1ヶ月近く遅れたものですが、賃貸管理会社から、病死した賃借人の相続人に、約800万円の請求がありました。
請求書を見せてもらいましたが、孤独死(病死)のあった貸室をフルリフォームした費用の全額が請求されていました。
当然、上記の請求に応じる理由はありませんので、相談者には、請求してきた賃貸管理会社に対して、とりあえず、「法律上、亡くなった時点での賃借人の故意または過失その他責に帰すべき事由による損耗以外の損耗については、原状回復義務がないので、請求には応じられない。」旨の回答書を出すようにアドバイスしました。
私は、大家さんサイドの仕事をしていますので、このようなことばかり書いていると、大家さんから嫌われてしまうので、本当は書きたくないのです。
しかし、私としては、大家さんが賃貸経営についての正確な法的知識をもち、損害を回避する対策をとることが必要だと思っています。
もし、大家さんが、賃貸住宅内の孤独死(病死)の場合、賃料収入が得られなくなることによる損害や多額の原状回復費用がかかることによる損害は、原則として病死した賃借人の保証人や相続人に請求することはできないことを理解していれば、孤独死に対応した保険に入るなどの対策をとることができます。
今、ネットで調べると、賃貸住宅内の孤独死(病死)に対応した損害保険は、いくつかの保険会社が提供しています。
また、賃貸住宅内の孤独死(病死)による損害まで保証の範囲に含めている保証会社もあるようです。
また、訴訟をしても勝てないと分かっていれば、無駄な裁判をすることもなく、そのための弁護士費用を払う必要もありません。各弁護士の報酬規程によりますが、800万円の損害賠償請求であれば、少なくとも30万円程度の着手金を弁護士に払うのではないかと思います。
30万円もの着手金を支払っても、判決では、それより少ない金額しか認められないおそれがあるという予想が立てば、大家さんも、訴訟提起を回避すると思います。
さらに、これは、私の考えですが、高齢者を入居者として受け入れるときは、室内にセンサーを設置し、長時間センサーの反応がないときは、大家さんが貸室内に立ち入ることができるような条項を契約書の条項に入れるという対策も考えられます。
こうしたセンサーについては、賃貸経営のフェアなどで、結構安価でよいものが展示されていた記憶があります。
いずれにせよ、孤独死(病死)した賃借人の保証人や相続人に対する請求には、あまり期待できないことを理解して、対策を立てていくべきだと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。