賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
隣の部屋の自殺にも、説明義務がある?心理的瑕疵の説明義務の範囲
最近、私の知人が新型コロナウィルスに感染し、陽性となりました。
その人の話によると、熱が出たので、発熱外来を受診しようとしたが、予約がいっぱいで受診できず、保健所への電話も繋がらなかったので、民間のバイク便によるPCR検査を使って、陽性であることが分かったそうです。
その後、また、保健所に電話をしたところ、何とか繋がり、陽性であることを説明したが、病院での検査を受けないと陽性とは認められないと言われたそうです。
発熱外来の予約がいっぱいで受診できない人は沢山いますので、受診者の陽性率がおよそ5割と言われていることからすると、隠れ陽性者はかなりいそうです。
また、昨日のネットニュースでは、千葉県内に住んでいる人のPCR検査の検体が東京都内の検査機関に送られ、そこで陽性が判明した人の数を、その検査機関が東京都内の保健所に報告したため、陽性と判明した人の数が東京都の陽性者数に含まれていたという話がありました。
こうした事情からすると、毎日発表される陽性者数は、あまり当てにならないのではと思ってしまいます。
今日は心理的瑕疵の説明義務のお話です。
私の知り合いの大家さんのAさんから、こんな相談を受けました。
Aさんは、都内にワンルームマンションをいくつか所有していますが、先日、その一室をBに賃貸しました。
この部屋は、AさんとBが賃貸借契約を締結する1年ほど前に、隣の部屋で自殺があったのですが、Aさんも仲介業者も、このことを、契約締結前にBに説明していませんでした。
ところが、Bから、「1年前に隣の部屋で自殺があったことを説明しなかったのは、許せない。知っていれば契約しなかった。転居するので、引っ越し費用を出して欲しい。」というクレームがあったそうです。
皆さんもご存知だと思いますが、自殺があった部屋の隣や階下の部屋に住むことについての嫌悪感と、自殺があった部屋自体に住むことについての嫌悪感とは、かなり違うので、自殺があった部屋の隣や階下の部屋の賃貸借契約の締結に当たって、そこで自殺があったことを告知する義務はないという裁判例があります。
この裁判例によると、Aさんのケースは、説明義務はないということになります。
このように、自殺や病死の説明義務については、借主とトラブルとなることがときどきあり、説明義務の範囲について、貸主や仲介業者は悩むところです。
過去の裁判例からすると、概ね説明義務の範囲は、次のようになります。
・ 居室内での自殺死については、説明義務がある。
・ 居室内での老衰や病気による自然死については、説明義務はない。
・ 自然死であっても遺体の発見が遅れて長期間放置されたような場合は、説明義務がある。
・ 隣や階上の部屋での自殺死には、説明義務はない。
・ 自殺死があった部屋を賃借した人がいた場合、その次の賃借人には、居室内の自殺について説明義務はない。
・ 一般的に説明義務がない場合でも、賃借希望者が特に自殺や病死などの事故がなかったことを確認した場合や特約で自殺や病死などの事故がなかったことを確認する条項がある場合などは、説明義務が認められる可能性がある。
・ 時間の経過とともに、心理的瑕疵が希釈化され、説明義務がなくなることがある。都市部では、大体3から4年が目安と思われる。
迷うケースとしては、居室内ではなく、廊下や非常階段などの共有部分での自殺死について説明義務があるかどうかです。
心理的抵抗や嫌悪感という点からすると、自殺死のあった場所自体に住むわけではないとしても、日常的に使用する可能性のある共用部分での自殺死については、心理的抵抗や嫌悪感の度合いは高いと思います。
また、裁判例でも、廊下や非常階段などの共有部分での自殺死について、心理的瑕疵に当たるとしたものがあります。
従って、説明義務があると考えるのが無難かもしれません。
心理的瑕疵については、このほかにもいろいろな裁判例がありますので、また機会があれば、ご紹介します。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。