賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
高裁って、どんなところ?高等裁判所での審理と和解
オミクロン株が猛威を振るい、感染が拡大しています。
このため、1月21日から、あらたに東京など1都12県で、「まん延防止等重点措置」が適用されました。
飲食店やホテルなどは、やっと客足が戻ってきたばかりなのに、また営業を制限されることになるため、本当にお気の毒です。
この第6波が早期にピークアウトし、卒業式などのイベントのある3月までに感染が収束することを祈るばかりです。
さて、今日は、高等裁判所での審理と和解のお話です。
昨年11月、ある建物明渡請求事件の控訴審の審理があり、年末には、相手方と和解をして事件が終了ました。
この事件の概要は、次のとおりです。
私の依頼者は、神奈川県内の駅前に、店舗兼マンション一棟を所有しているA社ですが、その店舗に上場企業B社が経営する飲食店が入居していました。
A社とB社は、店舗の賃貸借契約を締結するに当たり、飲食店の排気ダクトの内部清掃を定期的に行う合意を文書で交わしていましたが、B社は、この合意を実行せず、長期間にわたって排気ダクトの内部清掃をしませんでした。
このため、B社の経営する飲食店の上階のマンションの居室の住人から臭気等の苦情があり、A社は、B社に対し、再三に渡って排気ダクトの内部清掃を要求しました。
しかし、何故かB社が、頑なに排気ダクトの内部清掃を拒否し、最終的には、話し合いにも応じなくなったため、A社は、B社との店舗の賃貸借契約を解除しました。
B社は、その他にもいろいろと問題を起こしていたので、契約解除の理由は、排気ダクトの内部清掃を実行しないというだけではありませんでしたが、どの解除理由も、賃貸物件の管理上のトラブルという程度のものであり、解除の決定的な理由となるような重大な契約違反と言えるものではなかったので、解除が認められるか微妙なケースでした。
案の定、訴訟が始まると、裁判官は、解除の有効性について否定的でした。しかし、B社が、その後も、賃貸借契約の条項に違反する行為を繰り返し、しかも極めて不誠実な対応であったため、その後の契約違反行為も解除理由に加えて、2度目の解除通知を送り、これを訴訟でも追加で主張しました。
この結果、2度目の解除が有効と認められ、B社に対して、店舗を明け渡すよう命じる判決が下されました。
前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
敗訴したB社は、当然控訴しました。
控訴をするには、判決を受け取ってから2週間以内に、控訴状という書面を、判決をした裁判所に提出するのですが、この控訴状が提出されると、大体3ヶ月後くらいに、控訴審の第1回口頭弁論期日が開かれます(もっとも、今はコロナ禍のため、少し遅れることがあります。)。
また、この3ヶ月の間に、控訴した側(控訴人といいます。)は、一審の判決の問題点や新たな主張などを書いた控訴理由書を高等裁判所に提出し、控訴された側(被控訴人といいます。)は、控訴答弁書を書いた書面を提出します。
この事件でも、控訴理由書と控訴答弁書の提出があり、昨年の9月に控訴審の第1回口頭弁論期日が開かれました。
皆さんは、意外に思われるかもしれませんが、実は、高等裁判所での控訴審の審理は、ほとんどの事件で1回だけで終わり、何回も弁論期日が開かれることはありません。
これは、高等裁判所での控訴審の審理が、実質的に第1審の判決内容の検討、すなわち、第1審の判決に、結論に影響を与えるような法律違反や不合理な事実認定がないかの検証であり、もう一度審理をやり直すようなものではないからです。
このように、高等裁判所での控訴審は、第1回口頭弁論期日において、控訴状、控訴理由書、控訴答弁書の陳述を行い(これも、「控訴理由書を陳述しますか。」「はい、陳述します。」という形式的なやりとりだけで終わりです。)、判決期日を指定するだけで終わってしまいます。
この後、ほとんどの事件で、裁判長から、当事者双方に対し、「和解の話し合いの余地はありますか。」という質問があり、当事者双方も、とりあえず、「和解の話し合いをお受けします。」と答えます。
「第1審で勝った側は、和解の話し合いをする必要はないのではないか。」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、第1審で勝訴したからといって、必ず控訴審でも勝訴するという保証はありません。
もちろん、第1審で勝訴したにもかかわらず、控訴審で逆転敗訴する確率は、かなり低いので、頻繁に逆転判決が出ることありません。
しかし、控訴審で逆転敗訴した場合、残るのは上告審、つまり最高裁判所への上訴しかなく、上告審では、原則として事実認定(ある事実があったかなかったか)の争いは、取り上げてもらえませんので、控訴審が、第1審の判決とは異なる事実認定をしてしまうと、これを覆すチャンスは、ほとんどありません。
つまり、第1審の判決は、敗訴しても控訴審という次のチャンスがありますが、控訴審は、敗訴すると、実質的に次のチャンスはなく、弁護士にとっては、少し恐怖感があるのです。
また、和解の話し合いでは、裁判官から、裁判官が考える和解案が示されることが多く、その場合、提示された和解案の内容から、裁判官がこの事件をどう見ているのか、端的に言えば、第1審の判決の結論を維持する気持ちかどうか見えてきます。
さらに、和解が成立した場合、相手方が、自分の意思で和解内容を実行してくれます(たまに和解内容を実行しない不届きな人もいます。)ので、確定判決による強制執行などをする必要がありません。
こうしたことから、たとえ第1審の判決で勝訴していても、和解のテーブルに着くというのが、一般的な対応です。
本件の控訴審でも、裁判長から和解の勧告があり、当事者双方とも和解の話し合いのテーブルにつきました。
本件は、最初に説明しましたように、賃貸借契約の解除理由が弱く、2度目の解除をして、やっと解除の有効性を認められた事案であり、こちらとしても、控訴審でも勝つという鉄板の自信の持てる事案ではありませんでした。
このため、和解の話し合いの中で、裁判官がこちらに有利な和解案を提示してくれるか疑問でしたが、裁判官の提示した和解案は、店舗の明渡しを前提として、同時に請求していた数千万円の損害賠償金を一定額減額するかというものでしたので、少なくとも、裁判官が、第1審の判決の結論を維持する気持ちを持っているということは分かりました。
そこで、損害賠償金を30%減額し、3ヶ月以内に明け渡しをするという内容の和解をして、事件を終了させました。
今日は、控訴審の審理や和解についてお話ししましたが、皆さんがもし控訴審の審理や和解を経験することがあれば、参考にしていただきたいと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。