賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
民法改正は、正しく伝わっているか?~第7回 事務所や飲食店として建物を貸す場合には、ひと手間必要!
私は、オリンピック開催反対派でしたが、やはり競技が始まってしまうと、ついついテレビを見てしまい、だんだんと応援に熱が入ってしまいました。
多数のオリンピック関係者の入国や競技の実施自体が、物理的に感染拡大の原因となったということはないと思いますが、競技の応援などから生まれる高揚感や競技会場で多数の人が集まっている映像が、国民の緊張感や警戒感を緩ませてしまったのは事実かもしれません。
開催中止となれば、国民にも強い緊張感や警戒感が生まれ、今のような感染者の爆発的な増加はなかったと思いますが、日本選手の活躍に心躍らされた自分としては、「だから開催中止にすればよかったんだ。」とは、なかなか言いづらいところです。
さて、今回は、「事業」のための建物賃貸借における借主の個人保証人に対する説明義務のお話です。
改正民法では、「事業」のための建物賃貸借(例えば、会社の事務所や個人の店舗にする目的での建物賃貸借)の場合、借主は、個人保証人となる者に対し、保証契約締結前に、借主の財産状況の説明をしなければなりません。
借主が、この説明をしなかった場合、あるいは虚偽の説明があった場合、それによって連帯保証人が借主の経営状態や資力を誤解し、連帯保証をしてしまったときは、大家さんがそのことを知っていた場合あるいは知ることができた場合には、個人保証人は、大家さんとの保証契約を取消すことができます。
この借主の説明義務について、具体的事例で考えてみましょう。
Bは飲食店を開く目的で、AとA所有の店舗用建物を賃借する建物賃貸借契約を締結しました。Bの友人のCは、この建物賃貸借契約の連帯保証人となりました。
このような場合、BはCに対して、Bの財産状況を説明しなければなりません。
BがCに説明しなければならない内容は、次のとおりです。
① Bの財産、収入
② Bに賃貸物件の家賃以外に債務があればその額、弁済状況
③ Bが賃貸物件の家賃等の為に担保設定をする場合、その内容
この説明において、Bが多額の債務を負っているにもかかわらず、そのことをCに説明せずに隠した場合、もしAが、そのことを知っていた、あるいは知ることができたという事情があるときは、Cは、後に保証契約を取り消すことができます。
これは、事業用建物の賃貸借契約の保証人になろうとする者は、借主の財産状況によって保証人となるかどうかを判断しますので、この判断を誤らせないように、借主に対して、自分の財産状況を保証人となろうとする者に正確に説明する義務を課すとともに、借主がこの説明をせず、あるいは虚偽の説明をし、そのことを大家さんが知っていた、あるいは知ることができたときには、保証人を保護するために、保証契約を取り消すことができるとしたものです。
この保証人の取消権は、次のような事情があれば、認められます。
① 借主が保証人となる者に自分の財産状態を説明しなかった場合、あるいは虚偽の説明をしたこと
② それによって連帯保証人が借主の経営状態や資力を誤解し、連帯保証をしてしまったこと
③ 大家さんがそのことを知っていた、あるいは知ることができたこと
そこで、大家さんとしては、この取消権が認められないように、個人保証人との契約書に借主が保証人に対し財産状況を説明したことを確認した旨の条項を設けることが望ましいと言えます。
契約書に記載する条項としては、次のような書き方が考えられます。
第○○条
乙(賃借人)は、令和○年○月○日仲介業者○○(株)の○○所在の事務所において、下記記載の書類を連帯保証人丙に示した上で、次の事項を説明した。
乙は、本契約締結時点において、借入金、買掛金等、弁済期の到来した債務について、支払いの遅滞はなく、賃料の滞納を発生させる原因となる事象はない。
記
乙の第○期から第○期までの決算書、日付明細書、税務申告書
事業用建物の賃貸借の場合、大家さんは、借主に事業用建物を貸すにあたり、決算書類などを受け取り、借主の財産状態を調べますので、借主の財産状態を詳しく把握していることが多いはずです。
従って、保証契約を締結するにあたっては、借主が保証人に対して正確に説明しているかどうかを自分で確認すべきです。
できれば、借主が保証人に説明する際に立ち会い、大家さんが借主から聞いている話と借主が保証人に説明している話が一致しているかどうか、自分の耳で確かめましょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。