賃貸経営に関する法律について、現在、賃貸経営を営まれている方はもちろんこれから賃貸経営を始めようとお考えの方に知っていただきたいポイントをわかりやすく解説しています。
家賃の滞納
家賃の滞納があっても、何か月も長期間放置している大家さんがいますが、これでは借主は甘えてしまいます。家賃の滞納があった場合には、すぐに入居者に連絡をとりましょう。
電話をかけたり、貸している部屋に出かけて、面会を求めたりするといいでしょう。管理会社に家賃の回収を任せている場合は、管理会社に連絡をして、すぐに催促してもらってください。
大家さんや管理会社の人が、家賃を滞納している借主に電話をかけたり、面会を求めたりすることを、違法行為のように言う人がいますが、全く根拠がありません。
大家さんは債権者ですから、大家さんや大家さんの依頼を受けた管理会社の人が、常識的な時間帯(朝8時から夜9時)に、電話をしたり、きちんと連絡をした上で会いに行ったりするのは、何ら違法ではありません。
借主本人に催促をしても家賃の支払いがない場合は、連帯保証人に連絡してもかまいません。
このように、大家さんや大家さんの依頼を受けた管理会社の人が、常識的な方法で滞納家賃の督促をすることは、何ら違法ではありません。また、連帯保証人に連絡してもかまいません。
しかし、夜中に押し掛ける、部屋の外で大声を出す、張り紙をする、勤務先に電話をするなどの行為は、行き過ぎた督促です。
これらの行為は、借主の生活の平穏を害したり、名誉を傷つけたりすることになりますので、違法行為となることもありますので注意してください。
家賃の滞納を理由として賃貸借契約を解除した場合、賃貸借契約は解除通知が借主に届いたときに終了し、借主は、借りている部屋を使用する正当な権利を失います。従って、借主は、借りていた部屋を不法に占有していることになります。
しかし、だからと言って、借主の荷物を部屋から運び出したり、部屋の鍵を変えたりすることは許されません。
大家さんが契約を解除した後に実力で借主を部屋から追い出すというように、権利者が、正式な裁判手続きによらずに、実力で自分の権利を実現することを自力救済と言いますが、我が国では、自力救済は禁止されています。自力救済を認めると、自分が権利者であると主張する者が、好き勝手に実力で権利を実現しようとし、社会が混乱してしまうからです。
自力救済は禁止されていますので、大家さんが契約を解除した後に実力で借主を部屋から追い出すことは、単に許されないだけではなく、違法行為として損害賠償責任を問われることもあります。大家さん自身が手を下さなくても、管理会社や保証会社に行わせた場合も同様です。
さらに、悪質な場合は、建造物侵入罪や器物損壊罪といった犯罪となることもありますので、注意してください。
たとえば、借主が家賃を3ヶ月以上滞納している場合を考えてみましょう。
まず、弁護士に依頼して、滞納家賃の支払いを催告する内容証明郵便を出してもらいます。建物明渡しの事件を数多く手掛けている弁護士なら、相談から1週間以内に内容証明郵便を出してくれます。
この内容証明郵便は、滞納家賃の支払いを求める催告ですから、【Q 借主の契約上または法律上の義務違反を理由として契約を解除するには、どのような手続きが必要ですか。】で説明したように、借主に届いてから1週間程度は待たなければなりません。そして、この1週間に滞納家賃の支払いがない場合は、賃貸借契約は解除となります。もっとも、これまでの経験では、多くの場合、内容証明郵便を受け取った借主の3人に1人は、滞納家賃の支払いをしてきます。弁護士から内容証明郵便が来た時点で、大家さんが本気であることに気付くのです。
しかし、残りの3分の2は連絡すらしてこないか、連絡をしてきても、払うことができない借主です。従って、訴訟手続きによって建物の明け渡しと滞納家賃の支払いを求めるほかありません。
ここでも、この種の事件に慣れている弁護士は、1週間程度で訴えを起こします。これでも、ここまでで、既に3週間から4週間が過ぎています。
明渡し訴訟の訴状を提出すると、裁判所が裁判期日を指定して原告(大家さん)と被告(借主)に連絡します。この裁判期日は、訴状を提出してから1ヶ月後くらいに開かれます。その後も、裁判期日は原則として1ヶ月に1回のペースで開かれます。
訴訟手続きでは、被告は、初回の裁判期日には「答弁書」を出せば欠席しても構いません。
しかし、建物明渡し請求事件の被告(借主)のうち2人に1人くらいは、初回から出頭し、和解を申し入れてきます。
家賃の滞納を理由とする契約解除の場合、単に被告(借主)が家賃を払わなかったから解除したというだけですから、被告(借主)には、反論らしい反論はありません。
従って、被告(借主)は、滞納した家賃を少しずつ払うので、このまま部屋を使わせてほしいとか、何月何日までに出ていくので、それまで待ってほしいという和解案を出してきます。裁判官も、できれば和解で解決するのが好ましいと考えているので、和解が成立するように、話を進めてくれます。
ほとんどの場合、「何月何日までに出ていく、滞納している家賃は、出て行ったあと分割して少しずつ払う。」という内容の和解が成立します。和解の場合、明渡しの猶予期間は、長くても2ヶ月程度です。
先ほども説明しましたように、家賃の滞納を理由として契約を解除し、建物の明渡しを求める裁判を起こした場合、被告(借主)には、反論らしい反論はありませんので、和解をしない場合は遅くとも2回目の期日には結審し、その2週間後くらいには判決が下されます。
判決は、被告が受け取ってから2週間以内に控訴しなければ確定し、強制執行ができる状態となります。しかし、この段階に至っても被告(借主)が出て行かないこともあり、そうなるといよいよ強制執行をするしかありません。
このように、和解の場合は、2回目の裁判期日で成立することが多いので、訴えを提起してから2ヶ月くらいで裁判手続きは終わります。
これに対して、判決の場合は、これも2回目の裁判期日で結審することが多いのですが、判決の言い渡しまでに2週間程度、被告(借主)に判決が送達されて確定するまでに判決の言い渡しから3週間程度が必要です。判決が確定すれば、裁判手続きは終わりですから、訴えを提起してから3ヶ月から4か月弱で裁判手続きが終わることになります。
以上の説明は、普通のケースの話であり、特殊なケースでは、様々な事情によって裁判手続きは長引きます。
たとえば、被告(借主)が行方不明である、被告(借主)が居留守を使って訴状を受け取らない、貸している部屋に誰だかわからない人が住んでいる、被告(借主)が虚偽の内容の反論をしてきたなどの事情により、ひどいときは裁判に1年以上かかってしまうことがあります。
建物明渡し請求訴訟を提起するには、裁判所に収入印紙と郵便切手を納めなければなりません。
まず、収入印紙は、裁判手続を利用する手数料のようなものですが、建物明渡し請求事件の場合、明渡しを求める建物の固定資産税評価額の2分の1の金額が基準となります。
例えば、固定資産税評価額が800万円のマンションの明渡しを求める場合は、800万円の2分の1に当たる400万円が基準となり、25,000円の収入印紙を裁判所に納めます。
次に、郵便切手は、裁判所から被告や関係者に書類を送るときに使うものですが、被告(借主)が1人の場合、概算6,000円(東京地裁の場合)相当の郵便切手を裁判所に納めます。
弁護士費用には、着手金と報酬金があります。着手金は、裁判を始める前に支払う弁護士費用です。裁判に負けても返還されません。これに対して、報酬金は、裁判が終わった後に、裁判の結果に応じて支払う弁護士費用です。成功報酬ですので、敗訴すれば0円です。
建物明渡し請求事件の場合、事案の難易度にもよりますが、この種の事件をあまり扱っていない事務所では、通常着手金は20万円以上、報酬金は、40万円以上(消費税は別)でしょう。
これに対して、建物明渡し請求事件を多数手掛けている事務所では、相談開始から明け渡し完了まで、30万円の定額制で引き受けているところが多数あります。インターネット等で検索すると、見つけることができます。
ちなみに、この弁護士費用を被告(借主)の負担とする特約を契約書に記載した場合、このような特約は、消費者契約法に違反して無効であるという裁判例があります。
裁判所で、借主が借りている部屋を明け渡す和解が成立した場合や借主が借りている部屋を明け渡すように命じる判決が下された場合には、借主は、これらの和解や判決に従って、借りている部屋を明け渡さなくてはなりません。
この場合、借主が、自主的に借りている部屋を明け渡してくれれば問題ありませんが、居座っている場合には、これらの和解や判決に基づいて、裁判所の手続きによって強制的に部屋を明け渡させることになります。現実に使用して生活している部屋から、強制的に借主を排除することになりますので、最後の手段ということになります。
強制執行は、明け渡しを求める部屋の所在地の地方裁判所に、強制執行申立書という書類を出して申し立てます。
申立書を出した後に、裁判所にいる執行官という人と執行の打ち合わせをします。明渡し執行を現実に行うのは、この執行官です。もちろん、執行を申し立てた大家さんか大家さんの代理人である弁護士も、執行に立ち会う必要があります。
明渡し執行では、原則として第1回目と第2回目の2回の執行が行われます。第1回目の執行では、執行官が明渡しを求める部屋を訪れ、部屋の中に入って、誰が使用しているか、どのような使用状況かなどの調査をします。もし、借主が不在であったり、借主が施錠して鍵を開けなかったりしても、予め呼んでおいた鍵屋さんに鍵を開けてもらい、部屋に入ります。
執行官は、
- 強制執行中であることを記載した書面を部屋の中に貼る。
- 場合によって家財道具類を差押える。
- 借主に対し、本当に強制執行をする日(つまり借主を強制的に排除する日)を告げる
などの作業をして帰ります。
第2回目の執行では、借主を強制的に排除し、家財道具類を持ち出します。家財道具類のうち、借主に渡すことができず、あまり価値がないと思われるものは、その場で売却するか、1週間未満の売却実施日を定めて売却します。ただし、高価なものについては、別の場所で一定期間保管した上、裁判所の手続によって売却しなければなりません。
もっとも、借主が、第1回目の執行と第2回目の執行の間に、自主的に部屋から退去した場合は、この第2回目の執行は行われません。
明渡し執行にまでいってしまう事件はかなり少なく、さらに、明渡し執行までいっても、第1回目の執行から第2回目の執行までの間に、借主が自主的に退去するケースがほとんどです。もちろん、弁護士も、借主に対して、自主的に退去するように説得します。
- 予納金65,000円
- 諸費用
鍵屋さんの日当、家財道具を搬出する作業員の日当、家財道具類の運搬・保管費用などです。
部屋の大きさと家財道具の量によりますが、ワンルームマンションのようなところで30万円程度、2DKのファミリータイプのマンションで70万円程度はかかります。
これらの実費は、最終的には、被告である借主または連帯保証人に支払義務があります(ただし、まず大家さんが支払ってから、被告や連帯保証人に請求することになります。)。
【Q 家賃の滞納を理由として契約を解除した場合、貸室の明渡しを求める裁判にはどれくらいの費用がかかりますか。】で、建物明渡し請求事件の弁護士費用について、「この種の事件をあまり扱っていない事務所では、通常着手金は20万円以上、報酬金は40万円以上(消費税は別)でしょう。」と説明しましたが、こういう事務所では、明渡し執行についても別途10万円から15万円の弁護士費用をとることがあります。
これに対して、建物明渡し請求事件を多数手掛けている法律事務所では、相談開始から明け渡し完了まで、30万円の定額制で引き受けており、この30万円の中には、明渡し執行の弁護士費用も含んでいるのが普通です。