賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
素人には、そんなこと理解できない!契約書の記載と買主の責任
今日、久しぶりに東京地方裁判所に行ってきました。
こんなことを書くと、仕事をさぼっているように見えますが、暦どおり事務所に出て、朝から晩まで仕事をしています。訴訟事件の裁判期日も、今週だけでも7件、それ以外に、調停が2件あります。
しかし、現在、裁判のリモート化が急速に進んでおり、今週ある7件の訴訟事件の裁判期日のうち6件の期日がWEB会議で行われます。
このため、最近では、めっきり裁判所に行かなくなったのです。そのせいで、今日、東京地方裁判所に行ったときは、何となく久しぶりだなと感じました。
ちなみに、法務省は、民事裁判手続きのIT化などに向けた民事訴訟法の改正案を今国会に提出し、成立を目指す方針だそうです。この改正が成立して施行されれば、弁護士は、ほとんど裁判所に行かなくなるでしょう。
さて、今日は、建築条件付土地売買を巡るトラブルについてのお話です。
建築条件付土地売買とは、土地の買主は、買った土地に建てる建物について、自由に建築業者を選ぶことができず、必ず土地の売主または売主の指定する建築業者と建築請負契約を締結しなければならないという条件のついた土地の売買です。
私の依頼者のAさんは、千葉県内にある土地を気に入り、その土地を購入しようとしました。
その土地は建築条件付きの土地だったのですが、売り出しのパンフレットには、既に建築できる建物の基本的な設計と請負代金が記載されていました。
Aさんとしては、この土地に、この代金で、この建物が建つなら、是非この土地を買いたいと思い、すぐに申し込もうとしましたが、この土地を紹介した仲介業者から、建物についてきちんと説明を受けた方がいいと言われました。
そこで、Aさんは、土地の売主の不動産会社Bの指定する建築業者C社を訪ね、そこで、C社の担当者と一級建築士Dから、この土地上に、どのような建物が、どのような代金で建築できるのかについて、詳しく説明を受けました。
C社の担当者と一級建築士は、Aさんに対し、パンフレットに記載されていた建物と同じ図面を示し、このプランなら5000万円で建築可能であり、また、建物について、細部の変更は可能であるという説明をしました。
Aさんは、この説明で納得し、Bとの間で、この土地を5000万円で購入する売買契約を締結しました。
この売買契約書と重要事項説明書には、Aさんは、売買契約締結後、代金決済及び土地の引渡しまでの間に、Aさんを注文者、Bの指定する者を請負人として、Aさんがこの土地上に建てる建物の建築請負契約を締結しなければならず、この建築請負契約が締結されなかった場合または締結されても後に解除された場合には、土地売買契約自体が解除されることが明記されていました。
上記売買契約後、Aさんは、すぐに建築業者C社とパンフレットに記載されていたとおりの建物の建築を内容とする建築請負契約を締結し、また、Dとこの建物について、設計・監理委託契約を締結しました。
その後、Aさんは、Dとの間で、当初の約束どおり、細部の変更についての打ち合わせをし、Aさんの希望を反映した基本設計ができあがりました。
Aさんの希望する細部の変更とは、2階の屋根に天窓をつけるとかウォークインクローゼットの面積を少し大きくするなどであり、建物の当初の構造に全く影響のないものでした。
ところが、Dは、基本設計を前提として構造計算をしたところ、法令上、基礎工事に追加工事が必要となり、その費用として、2000万円の追加費用が必要であると言い出しました。
また、Dは、Aさんに対して、この基礎工事の追加を回避し、追加費用が発生しないようにするための新しい設計を提案しましたが、当初の設計とはかなり異なっており、Aさんは納得しませんでした。
結局、Aさんは、パンフレットに記載されていた建物を5000万円で建築することは不可能となったのであり、それは、C及びDの債務不履行であるとして、Cとの建築請負契約とDとの設計・管理委託契約を解除しました。この結果、本件土地の売買契約も、売買契約書の条項どおり解除されました。
土地の売主であるBは、Aさんに売買代金を返還してくれたのですが、Aさんとしては、売買代金の返還を受けただけでは、他の損害をカバーできません。
具体的には、既に支払った設計料の一部、銀行融資を受けた際の保証料、土地の決済から売買代金の返還を受けるまでの銀行利息、不動産取得税、土地の決済から売買契約が解除されるまでの固定資産税、3通の契約書に貼った印紙代など、さまざまな損害が発生しており、その総額は、数百万円になります。
そこで、Aさんは、B、C及びDに対して、これらの損害の賠償を求めました。
これに対して、Bは、非を認めたのですが、C及びDは、自分達には責任はないと言い張り、Dに至っては、まだ支払いを受けていない設計料の残金の請求をしてきました。
C及びDの言い分は、「パンフレットに記載されていた建物を5000万円で建築可能と説明したのは、一応の提案であり、この段階では、構造計算をしておらず、また、その義務もない。構造計算は、基本設計ができた後に行うもので、構造計算の結果、追加の基礎工事が必要となり、追加の費用が発生した場合には、買主の負担となる。このことは、重要事項説明書にも明記してあり、Aは、土地の売買契約に当たって、仲介業者から説明を受けて理解しているはずだ。」というものです。
確かに、土地の売買契約の重要事項説明書には、法規制や行政指導によって追加の工事が発生した場合、その費用は買主の負担となることが、おきまりの文句として抽象的に記載されています。
しかし、この土地の売買は、建築条件付きですから、Aさんからすると、どんな建物が、いくらで建つかが、売買契約を締結するかどうかを決定する最大のポイントとなります。
このため、Aさんは、わざわざ土地の売主Bの指定する建築業者Cと一級建築士Dの説明を聞きに行き、パンフレットに記載されている建物と同じ図面を示され、このプランなら5000万円で建築可能であると言われたことから、本件土地の購入を決定しました。
このような経緯があるのにもかかわらず、「パンフレットに記載されていた建物を5000万円で建築可能と説明したのは、一応の提案であり、この段階では、構造計算をしておらず、また、その義務もない。」という主張は通るのでしょうか。
また、Aさんのような素人が、建築のプロであるCと設計のプロであるDから、「パンフレットに記載されていた建物を5000万円で建築可能」という説明を受けた後に、「土地の売買契約の重要事項説明書には、法規制や行政指導によって追加の工事が発生した場合、その費用は買主の負担となる。」という重要事項説明書の文言を読み上げられただけで、「大きな追加工事があっても、その費用は自分が負担することになる。」などと理解できるでしょうか。
Aさんは、これから、B、C及びDを相手として、先ほど説明した損害の賠償を求める裁判を提起する予定です。
果たして、この裁判は、どのような結末となるのか、大変興味深いとこです。その結末については、後日お知らせできると思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。