賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
敷金の返還請求訴訟に反訴を提起
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
早いもので、あっという間に1月7日になってしまいました。
1月7日と言えば七草粥ですが、年末に鏡餅を買い忘れ、大晦日にスーパーに駆け込んだところ、既に鏡餅のコーナー自体が撤去されていました。店員さんに頼んで出してもらった鏡餅は、2キロもあるものでしたが、それしか残っていないと言うので、仕方なく買いました。七草粥に入れるお餅としては大き過ぎて困っています。
さて、新年早々ですが、またまた原状回復費用の相談です。
ある大家さんが、昨年12月に退去した入居者から、敷金の返還請求訴訟を起こされたということで、相談に来られました。
貸していた部屋は、原則としてペット飼育禁止なのですが、入居の際に、大家さんと入居者が交渉し、退去後の清掃費用や壁紙の取換え費用を一切入居者が負担するという特約付きで、ペット飼育を認めました。この特約は、契約前に交付した重要事項説明書にも賃貸借契約書にも明記されていました。また、清掃費用や壁紙の取換え費用の金額も、契約書に明記されていました。
ところが、入居者は、退去後に、弁護士に依頼して敷金全額の返還求める訴えを、簡易裁判所に提起したのです。
入居者側の主張は、そもそもこの物件はペット飼育可であったとか、仮に大家さんが主張する特約があったとしても、この特約は消費者契約法に違反しているので、無効であるなどというものです。
しかし、原則としてペット飼育不可であるということも、退去後の清掃費用や壁紙の取換え費用を一切入居者が負担するという特約付でペット飼育可となったことも、契約前に交付した重要事項説明書にも賃貸借契約書にも明記されているのですから、「この物件はペット飼育可であった。」などという主張は、無理な主張としか言いようがありません。
法律や裁判の素人の入居者が、このような主張をするというならまだ理解できますが、弁護士がこのような主張をするというのは、全く理解できません。
また、原状回復費用の一部を入居者に負担させる特約が消費者契約法に違反しないことは、最高裁判所が認めているところであって、建物賃貸借契約についての事件にかかわる弁護士ならば、知らないはずはありません。
こうした無理な主張が平然と行われるのは、訴えられた大家さんが、かなりの確率で、何の反論もせず無条件で請求どおりの支払いをしているからではないかと思います。
また、そのような実態を知っている弁護士が、こうした事件を引き受けて、とりあえず訴えを提起するというやり方をしているからではないでしょうか。
これは、単なる私見ですが、おそらく司法試験の合格者を増やし過ぎて、就職先や仕事のない若い弁護士を沢山生んでしまったことが、上記のような安易な訴訟が起きる一因ではないかと思います。
話を元に戻しますが、相談に来た大家さんは、若い方で、沢山の賃貸物件を所有されていることもあって、「納得できないので、今後ものこともありますから、自分で裁判をやってみます。」とおっしゃっていました。
大家さんとしては、今後も賃貸経営を続け、物件ももっと増やしていく予定なので、これからも何度も訴えられるだろうから、敷金返還請求の裁判のノウハウを身に着けたいということでした。
私としては、このような大家さんが増えることで、本件のような安易な訴えが減少することを願い、この大家さんの裁判での戦いに必要なアドバイスをする約束をしました。
アドバイスの手始めに、まず、答弁書、準備書面、証拠説明書の書き方と証拠の提出の仕方をお教えしました。
次に、反訴を提起することを勧めました。
実は、この事件の入居者は、かなり部屋の管理が悪く、結露などにより、部屋のあちこちの木製部分を腐らせたり、カビだらけにしたりしていました。こういう考えは偏見かもしれませんが、往々にして、こういう無茶な訴訟を起こしてくる入居者は、部屋の管理がずさんなことが多く、「部屋をこんな状態にしておきながら、よく敷金を返せなどと言えるなあ。」と呆れることがしばしばあるのです。
そこで、私は、この大家さんに、入居者が腐らせたり、カビだらけにしたりした部分の写真を撮り、その修理費用を正確に算出するようにアドバイスしました。大家さんによると、この修理費用は、100万円を超えるとのことです。
また、この部屋は、退去した入居者の入居前にフルリフォームしており、その証拠もあるということなので、上記の木製部分の腐敗やカビの発生が、入居者の居住中の不適切な管理によることは、立証可能でした。
このような場合、大家さんは、入居者から訴えられている敷金返還請求の裁判の中で、逆に入居者を被告として、100万円超の修理費用の支払いを請求する訴えを起こすことができます。これを、「反訴」といいます。単に防衛するだけでなく、逆に入居者を訴えるのです。
大家さんとしては、どうせ訴えられて、裁判所に行き、いろいろと書類を提出しなければならないのだから、同じ裁判の中でこちらの請求も審理してもらい、場合によっては、入居者からお金を取ることもできるのです。
この「反訴」の入居者に対する心理的・物理的効果は大きいものです。入居者は、自分が敷金返還請求訴訟を起こしただけならば、最悪の場合でも敷金を返してもらえない、すなわちゼロで済みますが、反訴が提起されると、最悪の場合、敷金を返してもらえない上に、お金を取られる、すなわちマイナスになってしまうのです。このため、入居者は、時間と手間をかけて必死に反論をしなればならなくなり、このマイナスのリスクや手間を避けるため、大家さんに有利な内容の和解を受け入れることもあります。
とりあえず相談に来た大家さんはやる気満々なので、今後の展開が楽しみです。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。