賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
民法改正は、正しく伝わっているか?~第2回 災害等で物件の一部が使用できなくなった場合、賃料はどうなる?賃料の当然減額規定
先日、仕事の関係で軽井沢の不動産業者に会う機会がありましたが、軽井沢では、昨年から別荘用地や移住のための建物建築用地の購入希望が急増しており、土地価格が上昇するとともに売り物が少なくなってきているとのことでした。
この不動産業者は、軽井沢だけでなく那須高原でも事業を展開していますが、那須高原でも同様の状態だそうです。
また、軽井沢の工務店の人にも会いましたが、昨年から建築の注文が多く、今注文があっても、実際の着工は1年以上先になるとのことでした。
長引くコロナ禍のために人々の生活拠点が都市部から地方へと変化する流れは、単なる一過性のものではなく、定着しつつあるのかもしれません。
この流れは、今後の都市部での賃貸経営に大きな影響を与える可能性があり、注視していかなければなりません。
さて、今回は、賃貸物件の一部滅失等により賃貸物件の使用、収益できなくなった場合についての改正民法の規定について、お話しします。
この点については、2020年3月号のコラムで説明しましたので、おさらいしてみましょう。
たとえば、真夏に、賃貸建物の給湯器が老朽化により故障し、修理が完了するまでの10日間、お風呂やシャワーが使用できず、台所や洗面所の蛇口からお湯が出ないという状態が続いた場合、賃料はどうなるでしょうか。
このようなケースについて、改正民法では、次のような規定が定められました。
改正民法第611条
1 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
この規定によると、まず、賃料の減額が認められるのは、賃借物の一部の「滅失」の場合だけではなく、「その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」でもよいので、単なる設備の故障や一時的な使用の障害の場合でも、この規定によってカバーされることになります。
次に、この規定では、単に賃料の減額「請求」ができるだけではなく、当然に減額となります。
もっとも、この規定には、いくら減額するかの計算やその根拠については、何も定められていません。
このため、最初に挙げたケースのような場合、賃借人が、「給湯器が10日間使えなかったから、賃料を〇〇円減額します。」と一方的に主張し、トラブルが起きることが予想されます。
こうしたトラブルを回避する対策として、私は、建物賃貸借契約書に、次のような記載をすることをお勧めしています。
まず、大家さんの修繕義務の範囲をできるだけ狭くするために、小修繕について大家さんの修繕義務を免責する規定をおいておきます。
もちろん、小修繕が必要な設備が壊れた程度では、「改正民法611条1項の使用及び収益をすることができなくなった場合」に該当することは希ですが、小修繕を巡る紛争を契機として改正民法611条1項の賃料減額を主張されることを防ぐために、こうした規定をおいておくとよいでしょう。
次に、賃貸借契約書に減額される賃料額あるいはその算定方法を明記しておきます。
第○条
乙の責めに帰すべき事由によらず本件貸室の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、月額賃料から下記の計算で算出した金額を減額するものとする。
この規定は、一つの例ですので、他のWEBサイト等も参考にして、使いやすい規定を考えてみてください。
なお、賃貸借契約書に、賃料の減額を一定の範囲で否定する規定をおくという対策も考えられますが、かえって大家さんと入居者の間のトラブルの原因となってしまう可能性があり、あまりお勧めしていません。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。