賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
ペット禁止違反は大家さんにも責任あり!?ペット禁止違反の苦情への対応
5月の下旬には、まるで7月のように気温が上がり、場所によっては真夏日や猛暑日になるところがありましたが、なんとか通常の気温に戻りました。かつては5月と言えば、1年の中で最も過ごし易い季節でしたが、今や五月晴れのさわやかな日は、何日も続きません。地球温暖化は、確実に進んでいるようです。
さて、今回は、ペット禁止違反の苦情に対する大家さんの対応です。
先日、私の知り合いの大家さん(Aさん)から、「私のマンションはペット禁止なんですが、ある部屋の入居者の方(201号室のBさんとします。)から、隣の部屋の入居者(202号室のCとします。)が犬を飼っていて、毎日キャンキャン鳴いてうるさいという苦情が来ました。どうすればいいでしょう。」という相談がありました。
私は、当然のことながら、「管理会社の人にCの部屋に行ってもらい、犬を飼っているか確認して、もし犬を飼っていることが確認できたら、犬を飼うのを止めるように通知を出してもらってください。」と答えました。
これに対して、Aさんが、「確認はもうやりましたが、Cの部屋には犬はいませんでした。」と言うので、私は、「どうやって確認したのですか。」と聞きました。
そうすると、Aさんは、「管理会社の人が、Cに、犬の鳴き声がするという苦情があったので、部屋を見せてもらいたいという電話をして、見に行ったそうです。」と答えました。
私は、この答えを聞いて、Aさんも管理会社の人も、何て人が良いのだろうと思い、思わず笑ってしまいました。
ペット禁止のマンションで犬を飼っている入居者に、「これから犬を飼っていないか見に行くよー。」と言えば、犬を隠すに決まっています。犬は、猫と違って、小型犬であればそれほど臭いがしないので、犬を隠されてしまえば、文字通り、尻尾をつかむことはできません。
私は、Aさんに、「管理会社の人に、抜き打ちでCの部屋に行ってもらい、玄関の周りでウロチョロしてもらって下さい。なんなら、ノックをしても構いません。キチンとした躾を受けている犬以外は、玄関で人の気配がすると、必ずといっていいほど、連続して鳴きます。その様子を、スマホの動画で撮ってもらってください。扉が閉まったままでも良いので、外から、号室の番号と一緒に、鳴き声を撮ってください。それから、Bには、苦情を書面で出してもらってください。」とアドバイスしました。
これに対して、Aさんが、「ノックをして、もしCが出てきたらどうするのですか?」というので、私は、「Cは、犬が鳴いている状態で、ドアを開けません。もし、Cがドアを開けたら、犬が部屋の中で鳴いていることがはっきりするので、その場で、ペット禁止違反がはっきりしますから、かえって好都合じゃないですか。」と答えました。
Aさんは、私がアドバイスしたような確認作業を管理会社の人に頼むのが面倒だったのか、「私がオッケーなら、このまま放置してもよいですよね。」というよく分からないことを言い出しました。
私は、「ダメでしょう。あなたのマンションは、ペット禁止なのに、ペットを飼っているのを承知の上で見逃したら、他の入居者の中にも、ペットを飼い始める人がでますよ。そうなれば、マンションのあちこちで、犬や猫が鳴き始めます。マンションの入居者全員が動物好きなら良いですが、動物が余り好きではなく、ペット禁止であること、つまり、猫が歩き回ったり、犬が鳴いたりしないというマンションだから借りたという人は、あなたに苦情を言いますよ。現にBさんが苦情を言っています。何人もの人がBさんのように苦情を言い始め、中には、大家さんが契約に違反しているから出て行くので、費用を負担して欲しいという人も出てくるかも知れません。」と説明し、きちんと確認作業を行うようお願いしました。
すると、Aさんは、「契約に違反しているのはCで、私ではないのですから、私が責任を負う理由はないのではないですか。」と、私の説明に反論してきました。
これに対して、私は、「いえいえ、契約書にペット禁止と書いてあるということは、大家さんであるあなたは、入居者に対して、ペット禁止のマンションを住居として提供する義務を負っているのです。ですから、ペットを飼っているのを承知の上で見逃したら、大家さんとしての契約上の義務に違反することになります。」と説明しました。
Aさんは、この説明でやっと納得してくれましたが、その後、きちんと確認作業を行ったかどうかは、わかりません。
賃貸借契約書で、入居者に対してさまざまな制限を課した場合、そのような制限のあるマンションだから入居するという入居者もいます。ですから、大家さんは、その制限を維持する義務を負うことになるのです。単に入居者だけが制限を守る義務を負い、大家さんは、何も義務を負わないわけではないのです。
もちろん、私がAさんにアドバイスしたような確認作業を必ずしなければならないわけではありませんが、少なくともペット禁止違反の苦情に対して、常識的に見て適切に対応したと言えるような行動をとり、記録を残しておくべきでしょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。