賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
サブリース業者の説明義務を法制化へ!~やっぱり出てきた一括借り上げのトラブル~
9月に入りましたが、まだまだ暑い日が続いています。
裁判所の休廷期間も8月31日で終わり、今週から裁判期日が入り始めています。いつもの忙しい日々が戻ってきた感じです。
さて、今日は、不動産賃貸に関して、ちょっと気になる新聞記事を見つけましたので、取り上げたいと思います。
私は、ちょうど2年前の2014年9月に、このコラムで、「一括借り上げ方式に潜む落とし穴」と題して、賃貸物件の一括借り上げ方式の危険性について説明しました。
私は、その中で、『私は、送られてきた賃貸借契約書の案を見て、「やっぱりそうか。」と呆れてしまいました。この賃貸借契約書の案には、3年に1度賃料額を見直し、賃料額について事業者と相談者が合意できないときは、事業者は6か月の予告期間をおいて契約を解約することができる条項が入っていました。
この条項によれば、事業者は、相談者に対して、3年ごとに賃料の見直しを要求し、要求が容れられなければ、契約を解約して、この事業から手を引くことができるのです。もちろん、この条項は有効です。』と書きました
つまり、一括借り上げ業者の契約書の中には、業者側が家賃の減額や契約の解除をできる条項が入っていることがあるので、注意してほしいと指摘したのです。
8月11日配信の朝日新聞デジタルによると、やっぱりというか、案の定というか、このような契約条項によるトラブルが急増しているようです。
この記事を引用すると、『「全室を一括で借り上げる」「家賃は保証する」と業者から誘われ、借金までしてアパートを建てたものの、数年後に家賃を減額された――。そんな苦情が相次いでいる』と書かれています。
また、この記事では、『国土交通省は「将来は家賃が減る可能性がある」との説明を賃貸住宅管理業者に義務づける制度改正を決めた。』と書かれています。
やっと国交省も重い腰を上げたようです。
しかし、「これで一安心」ではありません。
今頃このような制度改正をしても、もう遅いというほかありません。
既に、膨大な数の一括借り上げ方式による賃貸建物の建築が行われており、これから業者に説明義務を課しても、ほとんど手遅れでしょう。
この懸念の裏付けとなるのが、平成28年8月18日の日経新聞朝刊の社説です。
この社説は、「バブルの懸念ぬぐえぬ賃貸住宅の増加」という題であり、「国土交通省によると、昨年の貸家の着工戸数は前年よりも4.6%増えた。今年に入っても6月までの累計で前年同期を8.7%上回っている。」としています。
その原因として、この記事は、平成27年の相続税の増税を契機とした相続税対策やマイナス金利政策による資金調達の容易さを挙げています。
さらに、この記事は、住宅需要が高まっているわけでもないのに賃貸住宅が増えている原因として、「それでも新規物件が増えている背景には、サブリース(転貸)方式でのアパート建設があるだろう。土地を保有する個人などが建てたアパートを、業者が長期間にわたって一括で借り上げる契約方式だ。一定期間、家賃収入を保証する場合が多い。」として、一括借り上げ方式でのアパート建築をあげています。
このように、一括借り上げ方式によるアパート建築は、既に過熱しており、これから制度改正をして施行しても、すでに時遅しという感があります。
もちろん、今後のトラブルを防ぐという意味では、制度改正をする必要はありますが、既に長期間の賃料保証という条件を信じて、多額の借金をしてアパートを建築してしまった人をどう救済するのだろうかと思います。
今はまだ、一括借り上げ方式によるアパート建築のブームが始まってから数年程度ですから、トラブルの数が急増していると言っても、それほどでもないでしょう。
アパートを建築して3年から4年は、新築で設備も新しいですから、業者も入居者確保に苦労しません。ですから、まだ賃料の見直しを要求することはないでしょう。
しかし、建築から5年以上経過すると、建物も設備も古くなり始めますので、余程立地の良い物件以外は、だんだんと入居者の確保が難しくなります。そうなると、業者は、賃料減額の要求や契約解除の主張をし始めるのです。
私は、もしかすると、東京オリンピックが終った後、つまり2021年ころには、こうしたトラブルが大量に発生し、社会問題化するのはないかとすら懸念しています。
とにかく、これからサブリース方式の賃貸アパートの建築の契約する人は、
①賃貸借契約書と建築請負契約書は同時に調印する。
②賃貸借契約書は、事前に弁護士などの専門家にチェックしてもらう(1万円から数万円の費用でチェックしてくれる弁護士が多いでしょう。)。
③事業計画を税理士さんにチェックしてもらう。
④業者との打ち合わせは録音する。
という対策を取るべきです。
今後の展開を注視したいと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。