賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
外国人の大家さんとのトラブル~ミスター!日本の法律は違います。
梅雨の前触れのようなはっきりしない天気が続いています。我が家の紫陽花も梅雨を待ちわびるかのように、沢山の花を咲かせています。
さて、今回は、外国人の大家さんとのトラブルの相談です。
私は、ホームページでも書籍でも、大家さんサイドの弁護士として情報発信しているので、賃貸住宅の入居者の方は、全くと言っていいほど相談に来られないのですが、今回は知人の紹介で、珍しく入居者の方(Aさん)が相談に来られました。
Aさんは、米国人(Bさん)の所有している都内の賃貸住宅を借りて居住しているのですが、今年4月にそのBさんから、「急に日本に住むことになったので、貸している家から出て行って欲しい。」という連絡を受けました。
Aさんは、どうしていいか分からず、知人に相談したところ、その知人が私を紹介したというわけです。
相談に来たAさんに聞いたところ、Aさんは3年前にこの賃貸住宅を2年契約で借りたが、2年契約なので契約期間は終わっており、契約書に自動更新条項はないので、法定更新となっているとのことでした。
このように賃貸借契約が法定更新となった場合、賃貸借契約はどうなるのでしょうか。
法定更新となった場合、建物賃貸借契約の内容は、契約期間以外は、更新前の契約と同じですが、契約期間だけは、期間の定めのないものとなってしまいます。つまり、法定更新後の建物賃貸借契約は、いつからいつまでという契約期間のない契約になるのです。
期間の定めのない建物賃貸借契約は、大家さんの側からいつでも解約の申入れができ、大家さんから解約の申入れがあると、それから6か月経過後に契約は終了することになっています。
もっとも、この大家さんの解約申入れには正当事由が必要であり(借地借家法28条)、正当事由がなければ、解約申入れをしても契約は終了しません。
正当事由とは、分かり易く言えば、大家さんが賃貸中の建物を自ら使用しなければならない事情、すなわち「建物使用の必要性」です。
ただ、この場合の大家さんの「建物使用の必要性」というのは、文字通り自分で使わなければならない事情だけでなく、次のような事情も含みます。
1.貸している建物を自分や家族の住居などとして使用する必要がある。
2.貸している建物を事業のために使う必要がある。
3.貸している建物を建て替える必要がある。
このように、期間の定めのない建物賃貸借契約の解約申入れには、正当事由が必要なため、なかなか解約が認められることはありません。
また、仮に大家さんに正当事由があったとしても、入居者が任意に出て行ってくれば、大家さんは、入居者に対する建物明渡請求訴訟を提起して、裁判所から、入居者に対して明渡しを命ずる判決をもらわない限り、実際に明渡しを実現することはできません。
Aさんのケースでも、Bさんから退去を求める連絡あったのは今年4月ですから、BさんとAさんの賃貸借契約は、少なくとも今年10月までは継続します。
また、Aさんが、Bさんに正当事由はないと考えて明渡しを拒否すれば、Bさんは、Aさんに対する建物明渡請求訴訟を提起しなければなりません。
この裁判は、Aさんが争うかぎり、1ヶ月や2ヶ月では終わりませんから、仮にBさんが勝訴するとしても、この裁判が続いている間は、Aさんは建物に住み続けることができます。
私は、上記のことをAさんに説明し、Bさんに対して、同じ内容のメールを出すように言いました。Aさんは、かつて米国で生活をしており、英語は達者だったので、メールに上記と同じ内容の説明を書いてBさんに送りました。ところが、Bさんからの返事のメールは、驚くべきものでした。
なんとBさんは、Aさんの説明を嘘と決めつけ、「早く出て行け。何時出て行くんだ。」と要求してきたそうです。
Bさんからすれば、もう契約期間は終わっているのだから、自分の家を返してもらうのは当然であり、それが認められないような法律があるはずはないと思ったのかも知れません。
私は、米国の借家についての法律は知りませんが、日本の借地借家法のように、借家人が手厚く保護されていないのかも知れません。
そこで、私は、Aさんに対して、「Bさんに、日本の弁護士に相談するようにするように書いたメールを送ってください。」とアドバイスしました。
すると、何日かして、またAさんから連絡があり、Bさんから、「いくら払ったら、早めに出て行ってくれるのか。」という内容のメールが来たそうです。
恐らく、Bさんは、Aさんのメールを読んで日本の弁護士に相談し、その弁護士から、私がしたのと同じ説明を聞き、さらに、このような場合にAさんに早期に出て行ってもらうには、ある程度のお金を支払ってAさんに納得してもらうしかないと説得されたのでしょう。
その後、AさんとBさんは、いくらのお金をもらって、いつ退去するかについて、話を詰めていますが、今度は、Bさんから、退去日前に部屋の中を見せるように要求されているようです。
日本では、入居者が、退去日前に部屋の中を大家さんに見せる義務はありませんし、実務上も、そのようなことは行われていませんので、これも日本と米国の違いなのかも知れません。
どうなるか分かりませんが、法制度の違いは、結局お互いの常識の違いに行き着きますので、次から次へと対立点が出てきて、簡単には話はまとまらないかも知れません。
今回は、紛争の中身よりも、常識や法制度の違う外国人を相手にすることの難しさを感じる相談でした。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。