賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
物件購入時の注意事項~仲介業者の言葉より重要事項説明書の記載が重要
あっという間に2月になり、1年で一番寒い時期を迎えています。
1月のコラムで取り上げたシェアハウス事業者は、1月下旬にオーナーへの賃料の支払いを全面的に停止しました。
このシェアハウス事業者は、かなり多くのオーナーさんにシェアハウスを建築させて一括借り上げをしていた有名な会社で、オーナーへの賃料の支払いを全面的に停止したことは、ネット上のニュースにも取り上げられました。
一般的には、ある程度の規模のサブリース事業者がオーナーへの賃料の支払いを全面的に停止するような事態になれば、混乱を避けるために、民事再生手続きや破産手続きの開始の申立てをするはずですが、代表者が交代しただけで、このシェアハウス事業者は法的な倒産手続きをとっていません。
事業内容もブラックボックスでしたが、破綻後の再建計画も不明確で、どう対応してよいか困っているオーナーも多いようです。
さて、今日は、賃貸物件購入を巡るトラブルです。
私の知り合いのサラリーマン大家のAさんは、2年ほど前に都心に、賃貸用マンション1室を購入されました。
このマンションは、山手線内側にある上、北側正面に幹線道路が走っており、駅からも近く、なかなか条件のよい物件でした。ただ、マンションの西側と東側には他のビルが建っていてほとんど日差しは入らず、南側のベランダの隣地が空き地(第三者所有の駐車場)となっていて、まともな日差しが入るのは、この南側ベランダだけでした。
この物件を仲介した仲介業者の説明では、Aさんがこの物件の購入を検討していた時点では、当然のことながら、南側隣地を敷地とする建物の建築計画はなく、また、南側隣地は低層住宅しか建てられない地域なので、Aさんが購入を計画していた4階の部屋の南側ベランダの前を塞ぐような建物は建たないということでした。
ところが、最近、この南側隣地を敷地とする新しいマンションの建築計画が持ち上がり、建築業者の近隣住民への説明会があったそうです。Aさんがその説明会に出かけて話を聞いてみると、何と新しいマンショが建つと、Aさんの購入した部屋の南側ベランダの前面が塞がれることがわかりました。
Aさんが驚いて、購入時の仲介業者に電話をかけ、「『この駐車場は低層住宅しか建てられない地域なので、4階の部屋の南側ベランダの前を塞ぐような建物は建たない。』と言いましたよね。」と問い詰めたところ、その仲介事業者は、「そんなこと言いましたか。よく覚えていません。」ととぼけたそうです。
納得のいかなかったAさんは、知人の紹介で、私の事務所に相談に来ました。
Aさんは、嘘の説明をした仲介業者に対して、損害賠償請求をしたいということでした。
Aさんが言うところの嘘の説明とは、物件購入に際して仲介業者が、「この駐車場は低層住宅しか建てられない地域なので、4階の部屋の南側ベランダの前を塞ぐような建物は建たない。」と言ったことですが、この発言については、録音も何もなく、もちろん、そのような説明を書いた書面もありません。
さらに、物件購入時の重要事項説明書には、「本物件の南側前面には、本物件と同じ高さの建物が建築される可能性があります。」と記載されていました。
つまり、Aさんの言うところの嘘の説明の証拠は一切ないばかりか、重要事項説明書には、Aさんの主張とは逆のことが書いてあったのです。
私は、Aさんに、「重要事項説明書には、『本物件の南側前面には、本物件と同じ高さの建物が建築される可能性があります。』と書いてあるけど、ちゃんと読み合わせはしなかったのですか?」と聞きました。
これに対して、Aさんは、「読み合わせはしました。この記載についても、仲介業者に、『大丈夫か?』と聞いたのですが、仲介業者が、『大丈夫です。』と言ったので、信用しました。」と答えました。
物件購入時の重要事項説明書に、「本物件の南側前面には、本物件と同じ高さの建物が建築される可能性があります。」と記載されていて、Aさんの言うところの嘘の説明の証拠は一切ないという状態では、仲介業者に損害賠償請求などしても、到底勝ち目はありません。
ですから、Aさんには、「残念ですが、勝てる可能性はほとんどありません。」とお話しました。
物件を買うときには、「その物件が欲しい。」という気持ちが強くなりすぎて、冷静さを失いがちです。普通に考えれば、物件購入時の重要事項説明書に、「本物件の南側前面には、本物件と同じ高さの建物が建築される可能性があります。」と記載されていているのに、仲介業者が「大丈夫です。」と発言するのは、明らかにおかしいです。
そういうときは、疑問が解消されるまで、とことん説明を聞き、場合によっては、その説明を録音したり、書面化してもらったりするべきです。大金を借りて大きな買い物をするのですから、それくらいの慎重さが必要です。
ちなみに、この事案で、仲介業者の、「この駐車場は低層住宅しか建てられない地域なので、4階の部屋の南側ベランダの前を塞ぐような建物は建たない。」と言う発言が録音されていたら、どうなるでしょうか。
Aさんは、この発言を聞いて物件購入を決めたのですから、この発言があった時期は、重要事項説明書の読み合わせよりかなり前ということになります。このため、仲介業者としては、「最初は、そのように説明していたが、よく調べたら高い建物が建てられる土地であることがわかったので、誤解のないように、そのことを重要事項説明書に明記しました。」と言い逃れをするでしょう。
残念ながら、裁判官は、重要事項説明書の「本物件の南側前面には、本物件と同じ高さの建物が建築される可能性があります。」との記載を重視しますので、仲介業者の言い逃れを認めてしまう可能性が高いといえます。
このように、不動産の売買では、仲介業者の口頭での発言より契約書及び重要事項説明書の記載が重視されますので、これらの書類の記載を十分に確認することが必要です。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。