賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
サブリース会社の横暴!?賃料減額請求と契約解除
世界では、オミクロン株の感染拡大が続いていますが、日本では、今のところ感染者数の増加が抑えられており、飲食店も、年末に向けて活気が戻ってきているようです。
先日、私も、事務所の同僚の先生と飲もうということになり、ネットで適当なお店を探しましたが、1日前では、ほとんどのお店が予約不可となっていました。年末のかき入れ時に、感染拡大が抑えられているため、飲食店としては、久しぶりに予約がいっぱいとなり、喜んでいるのではないでしょうか。
さて、今回は、サブリース会社の賃料減額請求についてのお話です。
最近、賃貸物件をサブリース会社に一棟貸している大家さんから、サブリース会社から賃料減額請求があり、さらに、大家さんが減額を認めていないのに、サブリース会社が、減額した賃料を一方的に振り込んできて困っているという相談が、何件かありました。
賃料減額請求というのは、賃借人の権利ですので、サブリース会社が賃料減額請求をすること自体は、何ら問題ありません。
しかし、大家さんが減額を認めていないのに、サブリース会社が、減額した賃料を一方的に振り込むというのは、許されるのでしょうか。
賃料減額請求の仕組みは、次のとおりです。
まず、借主が、大家さんに対し、自分が適正と思う金額に家賃を減額して欲しいと申入れます。
これに対して、大家さんが了解すれば、賃料は減額されたことになります。しかし、大家さんが了解しない場合は、賃料の減額は確定しません。
その上で、借主は、家賃の減額を求める調停を裁判所に申し立てなければなりませんが、調停で話し合っても合意ができない場合は、調停不成立となります。そして、調停不成立になった場合は、借主は、賃料の減額を請求する訴訟を裁判所に起こすことになります。借主が、賃料の減額を請求する訴訟を起こした場合には、裁判所が審理して、判決によって適正な賃料額が決定されます。
上記のとおり、賃料の減額は、借主が勝手に決めることはできず、まず、大家さんに対して、賃料減額請求をして、大家さんの了解を求めることが必要です。
では、もし、大家さんが減額を認めない場合、借主は、いくらの賃料を払えば良いのでしょうか。
たとえば、賃貸借契約では賃料月額10万円であるが、近隣の賃料相場が下落した等の理由で、借主が、大家さんに対して、賃料を月額8万円に下げてほしいと申し入れて拒否された場合、その後、借主は、従前の賃料の月額10万円を払う義務があるのか、それとも、減額した8万円を払えば良いのか、いずれでしょうか。
法律上、賃料の減額請求があった場合、大家さんは、自分が「相当と認める額」の請求をすることができることになっています。
この「相当と認める額」というのは、従前の賃料を下回ってはならないというのが通説及び判例です。
つまり、上記の例では、借主は、従前の賃料の月額10万円を払う義務があることになります。
従って、もし借主が、減額した月額8万円の賃料しか払わなかったとすると、賃料を一部滞納していることになり、契約上の義務違反を問われることになります。
では、この場合、大家さんは、賃料不払いを理由として、賃貸借契約を解除することができるでしょうか。
確かに、賃料不払いは、契約上の義務違反ですから、契約を解除する理由とはなります。
しかし、裁判所は、賃貸借契約の借主の契約上の義務違反を理由とする契約の解除について、その義務違反が賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情がある場合には、解除を認めないという考え方(いわゆる信頼関係理論)をとっています。
このため、借主に契約上または法律上の義務違反があった場合でも、その程度によっては、契約解除が認められないことがあります。
賃料の滞納の場合、一般的に、裁判所は、1カ月分から2カ月分程度の賃料の滞納では契約の解除を認めておらず、3カ月分の賃料の滞納があれば、信頼関係の破壊があったものとして、契約の解除を認めています。
このように、裁判所は、一般的に3カ月分の賃料の滞納がある場合に、信頼関係の破壊を認めていますので、賃料の一部不払いというだけでは、なかなか信頼関係の破壊を認めてくれないでしょう。
上記の例では、もし借主が、減額した月額8万円の賃料しか払わなかったとしても、滞納額は、月額2万円にしかなりませんので、単純に計算すると、3ヶ月分の賃料滞納となるには、15ヶ月かかることになります。
実際に、契約の解除を認めた裁判例を見ても、減額した額での賃料の支払いが長期間に渡り、滞納額がかなり多額になっています。
もちろん、信頼関係の破壊は、単純に滞納額だけで決まるものではなく、貸主と借主の交渉状況はどうだったか、月額2万円の減額請求が、客観的事情などから見て合理的なものかなどの事情も、考慮されると思います。
いずれにせよ、サブリース会社から賃料減額請求があり、さらに、大家さんが減額を認めていないのに、サブリース会社が、減額した賃料を一方的に振り込んできているような場合、大家さんとしては、ある程度の期間、従前の賃料の支払いを繰り返し書面で催告し、また、減額請求が根拠のあるものかどうか、近隣の地価や賃料相場を調べた上で、サブリース会社に書面で話し合いを求めるなど、減額請求にきちんと対応したという資料を残しておくとよいでしょう。
その上で、減額した額での賃料の支払いが長期間に渡り、滞納額がかなり多額になってきたときに、初めて契約解除の通知を送ることになります。
もっとも、サブリース会社が物件を借りてくれないと困るという大家さんは、大家さんから契約を解除することはできませんので、サブリース会社の減額請求に応じざるを得ません。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。