賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
契約期間が満了しても契約は終わらない!付郵便送達とは
今年も、あと1か月となりました。
毎年この時期になると、「今年も何とか乗り切った。」とホッとします。「乗り切った」という思いの中には、「病気などをすることなく仕事ができた。」という気持ちと、「お陰様で、1年間とりあえず困らないくらいの仕事があった。」という気持ちがあります。どちらかというと、後者の気持ちの方が強いでしょうか。ちゃんと仕事をしようと思っても、仕事がなければ始まりませんから。
さて、今年の6月号のコラム(契約期間が満了しても契約は終わらない!正当事由と立退料とは?)で、大家さんが、普通建物賃貸借契約の更新を拒絶する事案について取り上げました。
少しおさらいすると、大家さんが普通建物賃貸借契約の契約期間満了時に更新を拒絶する、つまり、契約を終わらせて借主に出て行ってもらうには、次の4つの条件がそろわなければなりません。
(1)所定の期間内の更新拒絶の通知
(2)契約期間の満了
(3)借主が退去しない場合は、遅滞なく異議申し立てをすること
(4)正当事由
私の依頼者であるAさんは、借主に対して、所定の期間内に、配達証明付き内容証明郵便で更新拒絶の通知をしました。また、Aさんは、契約期間が満了しても借主が出て行かないので、借主に対して、配達証明付き内容証明郵便で、直ちに退去するように要求しました。
しかも、Aさんには、Aさんの息子夫婦が脱サラして東京に戻ってくることになったので、貸していたマンションに住ませたいという自己使用の必要性もありました
このように、Aさんは、一応上記の(1)から(4)の全部の条件がそろっていましたので、契約期間が終わっても出て行かない借主に対して、建物明渡し請求訴訟を提起しました。
ただ、私としては、Aさんの自己使用の必要性はかなり弱いので、勝訴するためには、かなりの額の立退料を出すことを裁判官から求められると思っていました。
ところが、この訴訟は、被告不出頭によって、あっさり勝訴してしまいました。
私は、今年の2月号のコラム(家賃滞納があった場合の大家さんの損失)で、次のように書きました。
「通常の民事訴訟では、原則として訴えを提起してから1か月以内に第1回口頭弁論期日が開かれます。しかし、被告は、答弁書と言う書類さえ出しておけば、第1回口頭弁論期日を欠席することができます。しかも、答弁書は、次の5行だけを書いておけば足ります。
裁判所は、この答弁書が提出されると、第2回口頭弁論期日を指定せざるを得ません。」
ところが、この裁判で被告となった借主は、この答弁書も出さないまま、第1回期日を欠席したのです。
通常の民事訴訟において被告が答弁書を出さずに第1回期日に欠席すると、裁判所は、被告が原告の主張を認めたものとして扱い、直ちに原告勝訴の判決を下すのです。
もちろん、これは、裁判所が送った訴状や呼出状等(以下、「訴状等」といいます。)が被告に届いていることが前提です。訴状等が被告に届いていなければ、被告となった人は、自分に対する裁判が起きていること自体知らないのですから、裁判自体を開くことができません。ですから、裁判所は、判決を下すこともできません。
ただ、裁判所から送られてきた訴状等を被告が受け取らなくても、裁判所にとっては被告に訴状等が届いたことになる場合があるので、注意が必要です。
もう少し詳しく説明すると、裁判所が訴状等を被告に送ることを「送達」と呼びますが、この送達は、通常、裁判所から郵便局に書類を渡し、郵便集配員が配達する方法で行われます。この場合、原則として被告が受領印を押して受け取ることが必要です。
通常の送達ができない場合は、被告の就業先への送達などが認められていますが、それでも送達ができないときは、付郵便送達という方法が認められています。これは、書留郵便で訴状等を送るのですが、付郵便送達では、被告が受け取らなくても、発送した時点で訴状等が送達されたもの、つまり届いたものとして扱われます。ですから、裁判は開かれてしまうのです。
この付郵便送達を裁判所にお願いする場合は、送達先の住所の建物等に被告が住んでいることを確認して、裁判所に報告しなければなりません。たとえば、夜部屋の明かりがついているとか、電気や水道のメーターが回っているとか、郵便受けに郵便がたまっていないとかの事情を、実際に現地に行って確かめ、その報告書を裁判所に出すのです。つまり、被告がそこにいることをある程度証明しないと、裁判所は、付郵便送達をしてくれないのです。
今回の事件の被告も、通常の送達を受け取らなかったので、当事務所で被告が送達先の住所の建物にいることを調査して裁判所に報告し、付郵便送達を行ってもらいました。
被告がどういう事情で答弁書を出さずに第1回期日に欠席したかは分かりませんが、私の依頼者としては、かなりの額の立退料の支払いを免れたので喜んでいました。
私としては、これから建物明渡しの強制執行をすることになるので、少し気が重いところです。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。