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賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律
Q&A

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

賃貸経営に関する法律について、現在、賃貸経営を営まれている方はもちろんこれから賃貸経営を始めようとお考えの方に知っていただきたいポイントをわかりやすく解説しています。

賃貸経営に関する法律をQ&A形式で解説しています。

オーナーチェンジ

Q
前のオーナーから賃貸アパートを買い取りました。この場合、敷金の返還義務はどうなりますか。
A
1.新オーナーは旧オーナーと同じ立場

賃貸建物のオーナーチェンジがあった場合、売主(旧オーナー)と既に入居している借主の間の建物賃貸借契約は、借主の承諾が無くても、当然に買主(新オーナー)に引き継がれます。買主(新所有者)は、敷金あるいは保証金返還義務も、当然に引き継ぐことになります。
また、新オーナーは、前の契約の内容に拘束されますので、契約を自分の希望する内容に変更することはできません。
このように、前のオーナーから賃貸アパートを買い取った場合には、いろいろな負担を背負いますので、注意が必要です。
なお、買主(新オーナー)が借主に対して賃貸人であることを主張するには、建物の所有権移転登記を完了していることが必要となります。

2.売買前の確認事項

まず、旧オーナーと借主との間の契約書の内容をチェックして、特別な約束や負担がないか確認してください。
また、旧オーナーからの敷金の引き継ぎも、正確に行ってください。
さらに、旧オーナーと新オーナーとの間でよくトラブルになるのは、レントロールの間違いと建物や建物内の設備の故障や破損です。
新オーナーは、多くの場合、賃貸物件の賃料収入を前提とした利回りをもとに売買代金を決定しますが、この利回りの計算のベースになるレントロールに間違いがあり、予定していた賃料の収入がないというケースがときどきあります。
また、旧オーナーが建物や建物内の設備の破損や故障を隠して建物を売却し、オーナーチェンジ後に、新オーナーが借主から修理を求められ、多額の費用を負担させられるというケースもあります。
いずれも、旧オーナーと新オーナーとの間でトラブルとなりますので、売買契約締結前に、しっかり確認するべきです。

Q
令和2年4月1日に施行された改正民法では、オーナーチェンジの場合の法律関係について規定が設けられたそうですが、これまでの取り扱いに変更はありますか。
A
ありません。

改正民法では、賃貸建物のオーナーチェンジがあった場合、売主(旧所有者)と既に入居している借主の間の建物賃貸借契約は、借主の承諾が無くても、当然に買主(新所有者)に引き継がれます。また、買主(新所有者)は、敷金あるいは保証金返還義務も、当然に引き継ぐことになります。
ただし、買主(新所有者)が借主に対して賃貸人であることを主張するには、建物の所有権移転登記を完了していることが必要となります。
この取り扱いは、これまでの裁判所の判例及び実務と同じであり、今回の改正により、これまでの判例及び実務の取り扱いが明文化されたものにすぎません。
従って、これまでの取り扱いに変更はありません。

Q
競売で物件を取得した場合、今いる借主を追い出すことができますか。
A
1.抵当権に基づく競売とは?

大家さんの債権者が、債権を回収するために、大家さんの所有するアパートやマンションに設定している抵当権に基づいて、アパートやマンションを競売することもあります。
たとえば、大家さんが銀行からお金を借りてアパートを建設した場合、建設したアパートを、借りたお金の担保として差し出したとします。
担保ですから、大家さんが銀行から借りたお金を返すことができなくなると、銀行は、このマンションやアパートを、強制的に売ってしまい、その代金から大家さんに貸したお金を回収します。強制的にというのは、大家さんの意思とは関係なく、裁判所の命令で売られてしまうということです。
これを、抵当権に基づく競売と言います

2.新オーナーは、今いる借主を追い出せるか?

競売によりアパートの所有権を取得した新オーナーは、前からアパートに住んでいる借主に退去を求めることができるでしょうか。
結論から言いますと、退去を求めることができる場合とできない場合の両方があります。
大家さんが所有するアパートに銀行が抵当権をつけた場合、土地と建物の登記簿には、銀行が抵当権をつけたことが記録されます。
この登記簿の抵当権の記録には、いつ抵当権を付けたのかという「受付日」が記載されます。
借主が、この「受付日」より先にアパートを借りて引き渡しを受けた場合は、借主には新オーナーに優先する権利があります。ですから、新オーナーは、この借主に退去を求めることはできません。
「引き渡しを受けた」とは、借主が部屋を自由に使えるようになることをいいますので、通常は部屋の鍵を受け取った日に引き渡しがあったことになります。
しかし、借主が、「受付日」より後にアパートを借りて引き渡しを受けた場合は、新オーナーには借主に優先する権利があります。ですから、新オーナーは、この借主に退去を求めることができます。
もっとも、直ぐに出て行けというのは酷ですので、6ヶ月間の猶予期間が認められています。

Q
競売で物件を取得した場合、旧オーナーが預かった敷金や保証金の返還義務はどうなりますか。
A
1.前からいる借主を退去させることができる場合

新オーナーが借主を退去させることができる場合は、前の大家さんと借主との賃貸借契約を引き継ぎません。
従って、借主を退去させることができる場合は、借主に敷金や保証金を返す義務も負いません。ただ出て行ってくれと言えばいいだけです。
しかし、新オーナーが借主に退去を求めることができるというのは、あくまで新オーナーの権利ですから、新オーナーは、借主がそのまま住み続けることを認めることができます。
この場合でも、新オーナーは、前の大家さんと借主との賃貸借契約を引き継ぎませんので、新オーナーと借主とは、全く新たに賃貸借契約を結び直すことになります。
全く新たな契約ですので、新オーナーは、前の契約の敷金や保証金の返還義務を引き継ぎません。また、新オーナーは、前の契約の内容に縛られませんので、家賃を上げるなど、自分の希望する契約内容で契約するように要求できます。
もし、借主が、新オーナーの要求する内容の契約を拒否した場合には、借主は新オーナーと賃貸借契約を結べません。この場合、新オーナーは、当然借主を退去させることができます。

2.前からいる借主を退去させることができない場合

この場合、新オーナーは、前の大家さんと借主との間の賃貸借契約をそのまま引き継ぎます。
簡単に言えば、契約内容と借主はそのままで、大家さんだけ入れ替わったことになります。
従って、新オーナーは、借主が前の大家さんに預けていた敷金や保証金の返還義務を引き継ぎます。
また、新オーナーは、前の契約の内容に拘束されますので、契約を自分の希望する内容に変更することはできません。
このように、借主を退去させることができない場合には、いろいろな負担を背負いますので、競売での買い受けは、慎重に判断すべきです。