賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
LPガス使用物件の大家さん、知ってますか? LPガスの法改正について
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
新年早々、新聞に、日銀が1月の金融政策決定会合で、再び利上げをするのではないかという記事がありました。
米国FRBの利下げが予想どおり進んでいない一方、日銀が利上げをする可能性が高いため、僅かずつ円高が進んでいます。
日銀は、今後も利上げを続けると言われおり、銀行から変動金利で融資を受けて投資物件を買うという方法で投資物件の数を増やしている大家さんにとっては、金利の上昇によって返済額も増えますので、少し頭の痛いところです。
さて、昨年暮れに、ある大家さんからLPガスの供給契約を締結するにあたり、LPガス業者から渡された契約書案をチェックして欲しいという相談がありました。
その大家さんが言うには、「LPガスの法律が改正されたので、LPガス業者から渡された契約書案が、改正法からみて適切かどうか、チェックしてほしい。」ということでした。
この「LPガスの法律が改正された。」とは、どういうことでしょうか。
まず、前提として、我が国の住宅等へのガスの供給方法としては、主に都市ガスとLPガスがありますが、LPガスの割合は、約36%もあるそうです。
このLPガスの販売等を規制する法律として、「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律」がありますが、2024年4月2日にこの法律の施行規則の一部を改正する省令が公布されました。
大家さんが言っていた「LPガスの法律が改正された。」というのは、この政令のことです。
では、何のために、どのような改正をしたのでしょうか。
経産省のHPなどの記載によると、LPガス業界には、次のような悪しき慣行が見受けられるそうです。
その悪しき慣行とは、LPガス事業者が、賃貸住宅についてのLPガスの供給契約を獲得するために、大家さんに対していろいろな住宅関連設備(ガスコンロ、エアコン、給湯器など)を無償で提供するという営業活動を行い、これによって賃貸住宅についてのLPガスの供給契約を獲得した上で、無償提供した設備の費用を、LPガスの料金に上乗せして、LPガスを利用する入居者に支払わせるというものです。
ガスコンロ、エアコン、給湯器などは、本来大家さんがその費用を負担すべき設備ですが、上記のような慣行により、入居者に転嫁されてしまっているのです。
そこで、経産省は、「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律」の施行規則の一部を改正する省令を公布し、次のような規制を設けました。
(1)過大な営業行為の制限
まず、LPガス事業者は、正常な商慣習を超えた利益供与を禁止されます。先ほど説明したような営業手法は禁止されるということです。
また、消費者の事業者選択を阻害するおそれのある、LPガス事業者の切替えを制限するような条件付き契約を締結することなどが禁止されます。
これは、例えば、LPガス事業者が、大家さんや一般消費者との契約締結に当たって、将来他のLPガス事業者に切り替えられるのを防ぐために、契約書の中に、契約解除の場合は、貸与している設備の買い取りをしなければならないなどの条項を入れることを禁止するものです。
(2)三部料金制の徹底(設備費用の外出し表示・計上禁止)
LPガス料金の名目で、LPガスの使用とは無関係な費用等を上乗せすることを防ぐために、料金の形状及び表示ついて、次のような規制をしました。
1. 基本料金、従量料金、設備料金からなる三部料金制(設備費用の外出し表示)の徹底(新規契約・既存契約ともに適用)
2. 電気エアコンやインターホン、Wi-Fi機器等、LPガス消費と関係のない設備費用のLPガス料金への計上禁止(新規契約のみ)
3. 賃貸住宅向けLPガス料金においては、ガス器具等の消費設備費用についても計上禁止(新規契約のみ)
(3)LPガス料金等の情報提供
賃貸物件の入居者は、大家さんが決めたLPガス事業者からLPガスの供給を受けるしかなく、大家さんが決めたLPガス事業者の料金に不当な点があっても、賃貸契約期間中に他のLPガス事業者に切り替えることができません。
そこで、入居希望者が入居前にLPガス料金等の情報を入手できるように、次のような規制をしました。
1. 入居希望者へのLPガス料金の事前提示の努力義務(入居希望者に直接又はオーナー、不動産管理会社、不動産仲介業者等を通じて提示)
2. 入居希望者からLPガス事業者に対して直接情報提供の要請があった場合は、それに応じることを義務付け
入居希望者は、上記の方法によってLPガス料金等についての情報を得て、不審な点があれば、賃貸借契約の締結を見合わせることになります。
上記(1)と(2)の規制は、令和6年7月2日に既に施行されており、また、上記(3)の規制は、令和7年4月2日に施行される予定です。
この改正は、LPガスを利用しなければならない大家さんからすると、LPガス事業者からの住宅関連設備(ガスコンロ、エアコン、給湯器など)の無償提供が禁止され、また、入居希望者からのLPガス料金の事前提示要求への対応など、あまりメリットのある話ではありませんが、一応知っておくとよいでしょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。