家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
キッチンをどう使う、どう見せる
キッチンは見せるキッチンへ
近年システムキッチンはハイグレードでより品質の良い製品が発売されている印象があります。理由としては、キッチンからダイニング、更にリビングまでを一体化した空間をつくり、開放感のあるスペースとしたいからなのかもしれません。
キッチンは作業する場でもあるのですが、「インテリア」としての役割も求められています。ただ、ダイニングやリビングはどちらかというと団らんの場であり、くつろぐ場でもあります。キッチンは料理を作りますので、家事動線の効率化はもちろん、匂いや音などにも配慮する必要があります。あらためて、キッチンづくりにおける注意点を確認しておきましょう。
オープンキッチンの良さと注意するところ
・良いところ
オープンキッチンの良さは何と言っても「家事動線の効率化」と「コミュニケーションの取りやすさ」にあります。一体化したオープンな間取りでは、料理の準備から配膳、片付けまでの動線が短くなり、家事の効率が大幅に向上します。更に料理をしながらダイニングにいる家族と会話がしやすく、団らんの時間が増えより楽しい食事の時間をつくることができます。子育て世帯の場合であれば、子どもの様子を見ながら調理や片付けができるため安心です。
デザインの面でも、キッチンとダイニング、リビングは住まいの中でも「パブリックスペース」として最も個性を反映させやすいスペースです。そのためリビング・ダイニングのコンセプトに沿ったキッチンづくりをすれば、住まい全体に統一感が生まれ、見せ場の一つにできるのです。
・注意するところ
キッチンがダイニングに近いことで「見せたくない部分」までオープンになってしまう問題は、多くの人が抱える悩みでもあります。家族だけであれば問題ないのですが、友人や知人が訪問した際に、調理の手元や食材を覗かれるのは気になるところです。更に汚れたフライパンや食器類が溜まったシンクは見せたくありません。このような点が気になるようであれば、キッチンとダイニングの境に1.1m程度の腰壁をつくり、立上りの部分から奥行き15~20cm程度のカウンターを設けることです。手元を隠しつつ開放感を確保することも可能にします。
他に気をつける点では匂いや音の対策です。リビングでくつろぐ際、調理中の匂いやミキサーの音等が聞こえては落ち着かないこともあるでしょう。気になるようであれば、部分的に間仕切り壁や建具を設けて「一時的に」キッチンだけを閉じることが出来る空間にすることも一つの方法です。
キッチンで押さえておきたい3つの寸法
キッチンで押さえておきたい寸法は3つあります。
① ワークトライアングルの長さ
② ワークトップの高さ
③ 作業スペースの幅
以上、これらの寸法は基本的なことですが、改めて確認しておきましょう。
① ワークトライアングルの長さ
ワークトライアングルとはシンク、コンロ、冷蔵庫のそれぞれを結んだ三角形のことです。料理や後片付けなどの作業をスムーズに進めるなら、この三角形外周の合計で3.6~6.0m程度を目安にすると良いと言われています。この数字の根拠は成人の歩幅60~70cmとした場合、それぞれの場所に2,3歩で移動できる距離としたものです。
ワークトライアングルを考える際の注意点は、冷蔵庫の設置場所です。特に近年は冷凍食品も充実しており、冷蔵庫と別で冷凍庫を設置する方も少なくありません。
② ワークトップの高さ
自分に合うワークトップの高さを知る方法として、身長から計算する方法があります。
キッチンの高さ = 身長(cm) ÷ 2 + 5cm
例えば身長160cmであれば、
160cm ÷ 2 + 5cm = 85cm
となります。一般的なシステムキッチンの高さは80~95cmと5cm刻みで製作されています。最近は1cm単位でオーダーできるキッチンもあるため、こだわって高さを決めたい人は、ショールームに行って検討してみることをおすすめします。
③ 作業スペースの幅
作業スペースとは調理作業をするときに立っているスペースのことです。作業スペースの幅は、主に1人で作業することが多い場合90~100cm程度あれば十分です。夫婦や親子で作業することが多いのであれば、100~120cm確保するとよいでしょう。この幅はあまり広すぎない方が、背面収納からものを取りやすいこともありますので、バランスをみて決めたほうがいいです。
これからのキッチンは「ラウンジキッチン」へ
最近のキッチンやこれからのキッチンのあり方は「ラウンジキッチン」へアップデートしていくのかもしれません。建物の気密性が高まることで、間仕切りを出来る限りなくし、より開放感のあるLDKにすることが可能です。ホテルのロビーの様なリビング・ダイニングにキッチンが隣接していて、リラックスできるようなスペースのあり方です。近年のキッチンはそれらを意識してか、高級感のあるデザインがラインナップされてきています。特徴をあげると、耐熱性が高いセラミックの天板や、大型の家電を収納でき、スタイリッシュな背面キャビネットなどです。
見えないところでは、従来のシステムキッチンは約130kg前後の重量がありましたが、搬入時の負担を考慮して90kgまで軽量化できたものもあります。
ワークトップの分割対応も可能であり、搬入経路が狭い現場やエレベーターを使用しての搬入など、施工性も向上されています。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。