家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
コストダウンのテクニック15
この2年間で400~500万もコスト上昇
建設業界は2021年のウッドショックから始まり、建材、設備機器、人件費等の値上がりが続いています。木造2階建て延床面積35坪~40坪の家で、約400~500万ほどのコスト上昇があるのではないでしょうか。当然、これから家を建てる人はコストをシビアにみていくでしょうし、コストダウンを考えざるを得なくなっていくでしょう。
コストダウンと一口に言っても、単に製品のグレードを下げたり、ネットで購入して施主支給をしても、きちんと責任を明確にしないとトラブルになる可能性があります。
コストダウンをするにあたって、建主の心構えと、コストダウンをしてはいけない所、そして、コストダウンのテクニックを15項目あげて考えていきましょう。
仕上げ工事と設備工事でコストダウン
住宅建築コストの中心である本体工事費は、大きく躯体工事費、仕上げ工事費、設備工事費の3つに分けられています。そのうち最も大きな割合を占めるのが、約40%の躯体工事費です。この躯体工事費内の「木工事」が30~35%で残りは仮設工事です。人間の体でいえば、骨格になりますので、コストダウンはあまり期待できません。そうなるとコストダウンが考えられるのが、仕上げ工事(22~24%)と設備工事(20~24%)になります。ただ、近年は省エネやエコ建材等への関心も高まっているので、コストダウンしにくくなっているのが現状でもあります。
コストダウンをする前に
コストダウンは勿論価格を下げることが目的ではありますが、その前に心構えというか、基本的なスタンスを持つことも大切です。次の5つのことを念頭に置いておきましょう。
① 自分たちのライフスタイルは、何を大切にして暮らしを営んでいくのかをはっきりさせる。⇒間取りに表れる
② 建て主、設計者、施工会社の協力体制がなければコストは下がらない⇒施工会社から割引率の良いメーカーを提案してもらう
③ 基準寸法を守り、無理のない平面計画をする⇒ロスを出さない、無駄な資材の削減
④ 既製品、標準色、量産品をできる限り選定し、拘りのある部分にコストを掛ける⇒一点豪華主義の考え方
⑤ 入居後に出来る工事は後回しにする⇒外構工事(カーポートやフェンス等)
コストダウンをしてはいけない所
家を建てる時、一般的に自己資金や住宅ローンなど様々な手法で纏まったお金にしていきます。その時は家を建てることに精一杯で、なかなかランニングコストのことまで頭が回らないものです。そこで、今回はコストダウンしてはいけない箇所として、抑えるべき4項目をご説明します。
① 耐候性が求められる箇所…屋根と外壁
② 熱損失、省エネ…窓ガラス
③ 身体が毎日触れる所…人が集まる、または水が掛かるところなどに気を遣う
④ メンテナンス用の点検口を設けておく…万が一の時に床や天井を剥がすとなれば大変なので、点検口を設けて迅速に原因を発見
コストダウンのテクニック15
具体的にどのようなところをコストダウンすればよいのかをあげていきます。
① 計画敷地の地盤データを早めに把握しておくこと。軟弱地盤だったりすると80~100万くらい補強工事が掛かる。
② 総2階建ての場合、建物の平面プランは凹凸を無くしたシンプルな平面にすると、耐震的にも強い家に出来る。
③ 1~2階までの階高は3m以内とし、リビングの床を±0を基準として計画すると床一面の下地を揃えられるので加工手間が減る。
④ 延べ床面積で概算見積もりを考えるのではなく、施工床面積で考える。(吹抜けやベランダなどは床面積に参入されないため)
⑤ 各部屋の最大スパン(柱間距離)は4.5m以内で平面プランを考えておくと、大きな梁を使わずに済むのでコストダウンに繋がる。
⑥ 部屋数は多く取らず、あとで家具やカーテン等で仕切れば、壁の仕上げや建具が減る。
⑦ 窓の開閉形式は引き違い窓を基本とする。
⑧ 玄関ドアは親子ドアではなく、片開きドアとする。
⑨ 水回りは1箇所のエリアにまとめ、2階にトイレや浴室を設けない。
⑩ 本格的な和室ではなく、畳コーナー程度に抑える。
⑪ システムキッチンやユニットバスなどコストに幅があるのでグレードの選択によっては大きくコストダウンが出来る。
⑫ キッチンの吊り戸棚を諦めるだけで10~15万円は下がる。
⑬ 照明計画はダウンライトを基本とし、生活スタイルの変化に応じてコンセントを設けておけば、フロアスタンドなどで賄える。
⑭ 水栓⇔給湯器、エアコン⇔室外機の距離を出来るだけ短くした配置とする。距離が長いと配管部材だけでなく、その分エネルギーも消費される。
⑮ 設備機器等、施主支給が出来るものがないか検討してみる。ネットで購入すると安くて良いものが見つかることがある。現場での取付費は掛かるが、それでもコストダウンは可能。施工会社への設置相談と、使用後の不具合などによる責任の所在を明確にしておくとよい。
佐川からのアドバイス
家づくりは大きな買い物なので、ついコストに関心が向いてしまうのもわかります。一方で楽しみながらのコストダウンを考えてみてはどうでしょうか?例えば業務用のキッチンを入れてみる、少し柔らかいですが杉の無垢床材を選定してみるなどです。特に杉の無垢材などは、それほど高価ではありません。比較的柔らかい材なので、人工的な複層フローリングよりは傷がつきますが、それもまた家族の思い出として経年美となってくれます。100点満点を目指さなくても85点として、あとの15点は時間を掛けながら自分たちでつくっていくことで、愛着のある家になっていきます。
文頭にある通り、どんな暮らしを営んでいきたいか、部材や設備機器の選択ばかりだけでなく、考え方をはっきりすることでコストダウンが図れることも頭の隅においてトライしてみて下さい。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。