家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
心地良い内装材の選び方
日本人は昔から木を好む国民です。家を建てるときにも、木造住宅を希望する人が7割を超えているのです。木は夏には湿気を吸収し、冬にはそれを吐き出してくれる、夏は多湿、冬は乾燥の風土に最もふさわしい材料といわれています。しかし、これほど木造住宅が好まれるのは、そうした気候風土から来る問題だけではないでしょう。木も生物であることが大きいように思います。つまり、人間も生き物ですから、呼吸する材料である木が肌に合っていて、心が休まるのです。これは、住宅だけではなく、衣服についても同様です。木綿や絹、羊毛など自然の材料は心をやすらげてくれるものです。
それに対して、住宅でいえば鉄骨やコンクリート、また衣服でいえばポリエステルなどの人工的材料は便利で優れた性能をもっています。半永久的な材料も少なくありません。しかし、その反面、人口的であるがゆえに、心のやすらぎに欠ける面があるのではないでしょうか。それだけの理由なら、欧米でももっと木造住宅が好まれていいはずですが、日本人に特にその思いが強い背景には、2つの理由があります。ひとつは靴を脱いで服が直接触れる座の文化。もうひとつは日本人の肌の色が影響していると考えられます。
肌が直接触れる座の文化
戦後、欧米風の生活スタイルが浸透し畳の部屋は少なくなってきました。それでも靴を脱いで室内に上がることに変わりません。湿気の多い日本の気候風土に靴のまま生活することにはなじまないのと清潔好きな国民性もあるかも知れません。
それだけに日本の住まいには足や手で触れる部分が多くなります。この直接触れる部分が住まいの居心地を決める上でとても重要なのです。木・畳・コルクといった有機的な材料は肌触りに優れています。一方、無機的なビニール系の材料やアルミ材などは人間の手足との温度差があるうえ触った時の感触もそれ程いいものでもありません。ただ有機的な材料はキズがつきやすく無機的な材料はメンテナンスはそれ程必要とはしません。用途に応じて使い分け、何を優先にするかを明確にしていくことです。
日本人の平均的な肌色の反射率は50%
和室に入ると、心が落ち着き穏やかな気持ちになる人は多いでしょう。これは日本人の平均的な肌色の反射率が50%であることに、おおいに関係があるのです。
なぜ和室に入ると心が落ち着くかといえば、柱、畳、じゅらく壁、天井材などの材料が、肌色の反射率と同じか又は低いからです。身体に近い反射率の中にいることで、違和感が少なく安らぎを感じさせてくれるのでしょう。
たとえば、美容室やリゾートホテルの水まわりなどには人工大理石やガラス、ステンレス、アルミなどが多く使われています。そのため、とてもシャープで都会的な雰囲気もあり非日常が感じられます。また、近年は個人住宅の水まわりなどにも多く使用されるようになってきました。これらに共通していることは、人工的につくられた無機質な材料で、メンテナンスが容易であり、反射率は70~80%と非常に高いということです。
しかし、非日常空間で短時間過ごすのであれば、反射率の高い材料でもよいのですが、長時間いると疲れてきます。リラックスした空間をつくるのであれば、それは出来る限り反射率を50%に抑えた材料を選ぶことが大切なのです。
あるいは少しだけ空間に緊張感を持たせたいのであれば、玄関の床やリビングの一面の壁だけを反射率の高い材料にしてみてもよいでしょう。
一般にこれまでの内装材は個人の好みや感性で色のバランスを考えながら決めていました。
しかしこれからは、別の視点から見直してみるひとつの手法としてこの反射率の考え方を取り入れた材料選びも、取り入れてみてはいかがでしょうか。
内装材の反射率は50%を目安に
全体的に反射率の高い材料を選ぶと、やや緊張感の高い空間になる。
目に入る面積がもっとも多い壁を基準とし、床はやや反射率を抑えた材を選ぶと落ち着きのある部屋になる。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。