家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
建主が知っておくべき建築法令に関する最近の動向
2025年4月から改正
はじめに我が国の建築法令を歴史的にみると、最初の建築法規は、西暦701年の大宝律令で定められた「他人の家を覗き見る楼閣の建築禁止」であると言われています。その後、各時代にさまざまな布告が出されてきました。江戸時代には防火の観点から瓦屋根の奨励、明治時代は煉瓦造り・建築物の高さ・壁厚の制限などといったものです。
現在の建築基準法が誕生したのは昭和25年です。制定以降は甚大な自然災害や火災等により建築物が大きな被害を受けたことや、社会的ニーズにより順次改正が行われてきました。
私など設計を生業とする建築士においても、3年ごとの定期講習と修了試験が課せられています。特に近年は、温暖化による災害対策や温室効果ガスの削減など都市の強靭化と省エネ対策が喫緊の課題として、定期講習では多く取り上げられています。
こうした背景を踏まえながら、2025年4月から木造一戸建て住宅においても、構造と省エネに対して課題解決を図るべく、設計のあり方が大きく変わります。
建築士のみならず、これから家づくりを計画している建主も対応していくことが求められますので、主な建築法令をまとめました。
構造計算と省エネ計算が必要になる
・構造計算について
これまで都市計画区域外であれば「二階建て以下かつ延べ面積500㎡以下」の木造建築物等は建築確認・検査の対象ではありませんでした。
また都市計画区域等の区域内において、建築士が設計・監理を行って建築される建物(主に一般的な木造2階建て)は建築確認・検査は受けなければなりませんが、構造関係の規定の一部の審査や検査は特例で省略されてきました。
令和7年(2025年)4月以降から適用されますので、これからは全ての地域で審査の省略はなくなります。(平屋建てかつ延べ面積200㎡以下は対象外)
建主が知っておくべきこと・注意すること |
□構造の安全性を確認する計画については、必要事項を仕様表等に記載することで基礎伏図・各階床伏図・小屋伏図及び軸組図の添付が省略される予定です。 □設計業務の作業が増えることになるので、余裕のあるスケジュールと流れを確認してください。 □仮に構造計算によって壁量が不足していれば、壁を増やすなど間取りに多少の変更が生じることも考えられます。 □着工以降で軽微な変更でも、変更箇所によっては行政機関と相談する必要もあります。 □構造計算をすることで、より確かな耐震性の高い建物をつくることができ、安心安全につながります。 |
・省エネ計算について
これまで300㎡未満の小規模な建築物に対して省エネ基準への適合義務はありませんでした。しかし法改正により、全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準への適合が義務付けられます。
義務付けられる省エネ基準の内容は、建築物省エネ法に基づく「建築物エネルギー消費性能基準」と、住宅においては、品確法に基づく住宅性能表示制度の「断熱等性能等級4」「一次エネルギー消費量等級4」に相当する基準になります。
令和7年(2025年)4月以降から適合義務の対象が拡充されます。品確法とは「住宅品質確保促進法」が正式名称で、住宅性能表示制度や新築住宅の10年保証などについて定めた法律です。
建主が知っておくべきこと・注意すること |
□屋根・天井・壁・床・開口部などの断熱性能は、一定の性能以上とする必要があります。 □断熱性能の基準は各地域区分ごとに定められています。計画地がどの地域区分に該当するか確認する必要があります。 □地域区分に応じて暖房・冷房・換気・給湯・照明の設備機器に関する効率等の基準があります。各設備機器の性能値を確認することが求められます。 □外壁の材料や窓の大きさを決め、工事途中でその仕様を変更した際は熱抵抗値や熱貫流率の数値が基準よりも下回らないように考慮しなくてはなりません。 □断熱材や設備機器を選ぶ際、コストの上昇には十分注意が必要です。 □断熱性能の高い家は部屋同士の温度差を小さく出来るので、ヒートショックのリスク軽減だけでなく、エネルギーの使用量も削減できます。 |
適用開始時期について
構造及び省エネ基準適合義務制度は、令和7年(2025年)4月以降で工事に着工するものから適用されます。そのため法施行前から予め基準に適合した設計としておく必要があります。ただ、それ以前の着工であれば不要となりますので、スケジュールに十分注意することです。
その他、気になる改正
・省エネ基準適合義務制度は、増改築を行った部分が省エネ基準に適合するかを検討し、建物全体は必要ありません。これまでは建物全体が必要でした。リフォームや改修は対象とはなりません。(令和7年(2025年)4月以降)
・住宅の居室で採光に有効な開口面積(窓等)は、その居室の床面積に対して1/7以上必要でしたが、「床面において50lx(ルクス)以上の照度を確保できる照明設備」があれば、居室の床面積に対して1/10以上の開口面積までと緩和されました。特に事務所から住宅など用途変更するケースなどには有利です。(令和5年(2023年)4月施行)
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。