家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
建築のトラブルはなぜ起きる?
建築は目に見えないものが多すぎる
建築は他の職種と比べるとトラブルが多い職種といえます。なぜなら分譲住宅は別として、何もないところからつくり上げていくので、イメージの違いや勘違いが起きてしまうからです。特に住み心地を左右する光、風、音、臭い、熱といった項目は個人差もあるので、設計者と施主の間で上手く伝わらないと、トラブルの源になってしまう事があります。
例えば、思ったより部屋が暗い、風通しが悪くて湿気がたまる、排水の流れる音が気になる、部屋が暖まりにくい、といった様な事です。特に温熱環境は最も個人差が出やすいところなので設計者にしっかりと希望を伝え、上手くコントロールしてもらうことです。このように、建築を計画するには目に見えないものが多くあり、実際のところ建ててみないとわからないこともあるのです。そのため、その想像した建築物に対して共に(設計者と施主)理解を図っていかなければなりません。
クレーム発生の仕組み
デジタル社会のせいか、人と人が会って話す機会が少なくなり、やりとりも表面的になってきたように感じます。例えば、解体工事をする現場であれば、近隣に対して何日か前に挨拶を済ませ、仮に留守宅があったとしても解体前には再度挨拶を済ますことが求められます。
しかし、留守だったので解体案内のチラシだけポストに入れたと、施工会社は施主に報告したとします。そこで施主はやや不満に感じながらも「まあ、仕方ないか」とそこは一旦納得します。次に、工事が入り、たまに現場に行くと、毎回道路が汚れています。それがまた気になります。
一方図面では入力によるミスが見つかり、寸法の修正が起こったりします。全体のバランスで抜け落ちるような大きなミスなど、概算をして大枠を把握しながら設計を詰めていたアナログの頃は発生しなかったことが、デジタル社会では起きてしまうことがあります。こういった小さなミスの積み重ねが、やがては大きなクレームへと発展していくのです。
施主の不満は一般的に3つくらい続けて起きると爆発し、クレームとなってしまう。
もちろん、大きな問題が起きれば一つであっても爆発します。そうならない様にお互い早めにクレームの芽を摘み取ることがポイントです。
全ては「コミュニケーション不足」
近年は誰でも容易に情報を手に入れることが出来るようになり豊かになった半面、膨大な情報に振り回され、なかなか選びきれない施主も多くいます。自分で調べることも大切ですが、設計者の意図を聞いて、信頼を寄せることも大切な事です。
また、施工会社に対して施主が不満に感じる事は、
①工程についての詳しい説明がない
②融通が利かない
③問題に対して回答がない、或いは対応が悪い・遅い
④引き渡し後のコミュニケーションが何も無い
といった事です。
施主は何か都合が悪くなると「私達は素人だからわかりません。」と言うケースが多いように感じます。確かに建築に関する専門的な事はわからないかも知れません。しかし、相手の人柄やコミュニケーション能力を見抜く力は持っているはずです。
建築は大きな買い物です。竣工後に「本当の付き合い」が始まると言ってもいいかも知れません。「素人」とは言わず、大きな買い物ができる人なのですから、ぜひ信頼関係も上手く築いて愛着の持てる家づくりをしてください。
ミニ解説
「建築主」「建主」「施主」「クライアント」と住まいを建てる人の呼び方は様々ですが、どれも間違ってはいません。ただ次のような想いで文中では「施主」という言葉を使っています。
・「建築主・建主」
一番大事にしなければならない主という印象。
・「施主」
「施す」という言葉は「人に情けを施す」「人に恩恵を施す」など施す心をもって人を動かし、信頼関係を構築していくという印象。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。