家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
注文住宅はここをチェックすべし②
納得した家づくりをしていこう
先月号に続いて、今月号も注文住宅について書かせて頂きました。今月号はより具体的に予算や依頼先の見極め方、間取りの失敗事例などをまとめています。あわせて読んで頂くことで、より理想的な家づくりに向かって進んでいって下さい。たとえ理想の家を手にすることは無理だとしても、納得した家づくりをしたいものです。
予算はどう考える
■建物について
土地は別として建物の工事費は木造2階建てで、延床面積約35坪(115.5㎡)の広さの家を建てるのであれば、約2400万円を目安にして下さい。坪単価70万円です。
坪単価とは1坪(3.3㎡)つくるのに平均でどれくらいの費用が掛かるのかを概算で表した単価です。坪単価は65万円でも出来るでしょう。しかし、昨今の職人不足や社会状況を考えると70万円位を考えておいた方が間取りの自由度、仕上げ材のグレードなど選択の幅が広がってくるのです。
■返済について
資金面でチェックしておかなくてはならないことは、子どもの教育費との関係です。一般的には住宅ローンの返済が一番負担になる時期は子どもが大学に入る頃です。そのあたりをある程度イメージして返済計画をしておかないと、返済が大きな負担になることもあります。十分に注意しておきましょう。
■諸費用について
建物工事費2400万円という工事内容にはいわゆる門扉や駐車場、塀(ネットフェンス)などの外構工事は含まれていません。周辺環境によって予算は立てにくいのですが、200~250万円位は考えておくことです。それ以外に地鎮祭、上棟式、登記費用、引越し費用、カーテンやエアコン、新しい家電の購入、火災保険等を考えると100万円位は現金で用意しておく必要があります。これらの消費税も入れて考えると延床面積35坪の家で少なくとも約3000万円は掛かるということです。
注文住宅の成功・失敗は誰に依頼するかで決まる
一般的に注文住宅を建てようとした場合、ネットや雑誌、展示場などから情報を集めます。なかには完成見学会やセミナー、相談会などに足を運ばれる人もいるでしょう。とても良いと思いますが、最も大切なことは信頼できる会社、または人と出会えるかどうかです。出来れば知人・友人の紹介が良いのですが、後に面倒なことが起きると嫌なので、全く関係のない人が良いという考えもあるでしょう。その見極めは建主自身が感じた感性を大事にして判断されると良いと思います。
各社並べて比較していては駄目です。建物は他の商品と違って賞味期限が長いのです。ずっと長く付き合えるかどうか、目の前のコストだけで判断せず、長い目で物事を見る必要があるのです。依頼主が決まれば家づくりの80%は決まったと言っても過言ではありません。注文住宅はここが大きなターニングポイントになるのです。
間取りについて
■最近の間取りの傾向は
注文住宅の醍醐味はなんと言っても自由に間取りをつくれることです。自由に間取りをつくれると言っても建主も何を重視して家づくりを進めていくのかを決めておかなければなりません。例えば耐震性に優れている、断熱性・気密性に優れている、LDKが開放的な間取り、家事がしやすい間取り、収納が充実している等です。
ちなみに最近の住まいは断熱性が向上したせいか、LDKがオープンな対面キッチンに変わらず人気があるようです。また、共働き世帯が多くなったせいか室内物干しスペースや、パントリー、ウォークインクローゼットなどの設置を望む人が多い傾向にあるようです。
間取りで失敗するところは
設計士と様々な視点で打ち合わせをしたので、生活に問題はないだろうと思っていても、実際暮らしてみてわかることもあります。この10年間のデータを収集すると必ず上位に来るのが次の項目でした。参考にして下さい。
・電気コンセントとスイッチの位置の失敗
・収納の位置と広さの失敗
・玄関や階段など広さと高さの失敗
・明るさと熱環境の失敗(※熱は個人差があるので、特に注意)
・視線・音・臭いの失敗
・動線の失敗
失敗するところは図面に現れないところです。例えば、吹き抜けを設けたがキッチンの音や臭いが2階まで上がってくる。また、寝室の隣が隣家のキッチンでフードの排気が寝室の窓ガラスに向かって吹いているといったこともあるでしょう。自分たち家族の間取りは勿論、周辺環境も併せてチェックしてみることです。
ミニ解説
■建物工事費の支払いはいつ
基本的には契約時、着工時、中間時、竣工時など工程の節目に支払います。3回~4回に分けて支払うことが多いです。建主の都合に合わせて支払うことも出来るので、相談するといいでしょう。
■つなぎ融資
住宅ローンが実行されるまで、建物の支払いの必要が生じた時「つなぎ融資として前借りできます。ただし利息は住宅ローンより高めになります。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。