家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
予算オーバーとコストダウン
ついこのくらいはという・・・?
せっかく家を建てるなら、誰もが予算内で満足した家をつくりたいと考えるものです。
しかし実際は、ほとんどの人が予算オーバーをしてしまい、何かを諦めるか、グレードを下げた材料や設備機器をとり入れることになります。
どうして予算オーバーしてしまうのか?
例えば、間取りが決まった状態で設備機器メーカーのショールームに行けば、誰もがよりグレードの良いものを選んでしまうでしょう。それは数千万円の家を建てるのだから、このくらいは何とかなるだろうと思ってしまいがちになるからです。
そうした積み重ねが後に予算オーバーという結果を招く原因になってしまうのです。
そうならない為にも、施主としての心構えや知識をもっていれば、仮に予算オーバーをしたとしても納得した家づくりができるでしょう。
コストがアップする要因とダウンする要因
間取りを考える際、始めにコストアップする要因やダウンする要因をつかみながら進めることも大切です。コストに対する意識が高まって多少なりとも予算を抑えることに繋がっていくからです。
アップする要因
・建物の形に凸凹が多くある。
・屋根の形が複雑。
・吹抜けにする。
・ベランダを広くする。
・自然素材、無垢材等を多く使う。
・アルミサッシではなく、樹脂サッシや木製サッシを採用。
・高機能の設備機器を多く選んでいる。
ダウンする要因
・建物の形、屋根の形がシンプルである。
・間仕切り壁を少なくし、オープンな間取りを心がける。
・水まわりは出来る限り集中した計画とする。
・規格外は使わないで規格内のものを採用する。
・注文家具の数は少なくする。
・外壁材は塗壁からサイディングにする。
・2階のトイレは止める。
・設備機器の選択はデザイン性やコストも大切であるが、ランニングコスト、保証期間なども確認して選ぶ。
相見積りやネット購入で安くならないの?
相見積りで安くする ― ベストではない
コストダウンをする考え方のひとつに複数の業者に見積りを依頼し、安いところを選ぶ相見積りがあります。建築工事費が5千万円以上だった場合には効果のある方法です。しかし、建築工事費が2~3千万円程度であった場合それ程効果は期待できません。
仮に建築工事費に多少差が出てきたとしても、職人の技能や人柄まではわかりません。
むしろ家づくりでは、お互いに信頼関係をつくりながら内容をしっかり確認し進めていくことが大切ではないでしょうか。
なぜなら家は他の製品と違って、完成してからずっと面倒をみていただかなくてはいけないからです。わずかな金額の差で決めてしまい、竣工後に不具合が起きた際、職人さんが来てくれないという声はよく聞かれる話です。
やはり基本はその会社の信頼性を見極めた上で進めることが結局はコストバランスが良いことに繋がっていくのです。
ネットで安く購入する ― 責任は誰がとる?
ネットで検索すると設備機器などは確かに安いです。しかしそこには搬入費や取付費などは含まれていません。さらには使用中何か不具合があった場合、責任があいまいになることもあります。
できれば事情を施工会社に説明し、協力していただけるのか、又その際の問題点などを聞きながら進めていくことです。細かく言えば、現場に搬入された製品を梱包してきた段ボールなどは誰が片付けるの?といったことまで考えておく必要があるのです。
本当に必要なモノにコストをかける
近年は環境や健康への関心が高まって断熱材、自然素材、窓まわり(断熱サッシやLow-Eガラスなど)にこだわる施主も多くなりました。特に省エネを重視する傾向の中で温熱環境に関わる高性能建材は避けて通れません。
これは設備機器にも同じようなことがいえます。エコキュートなど省エネ型設備機器の採用が多くなり、10年前位は工事金額に占める割合が20%前後でしたが、近年は25%前後です。これはいずれ30%になるでしょう。
高機能の設備機器はグレードを上げるとすぐに快適さを実感できるため、施主はつい高品質のものを選びたくなるのです。
しかしながらこのあたりをしっかりと自分達家族に本当に必要なモノなのか、あこがれだけで選択していないかなど確認していかないと予算を抑えることはできません。
予算オーバーを防ぐには採用する材料や機器のグレードを見直すことは勿論ですが、間取りを考える計画段階から実はコストバランスの闘いは始まっていることもお忘れないように。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。