家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
南入り玄関と北入り玄関、どちらの土地が住みやすいの?
土地選び、南側道路がベストではありません
一戸建ての敷地を選ぶ際、道路幅も大切ですが、敷地が道路に対してどの方向に面しているかが最も重要になります。それは道路の方向によって玄関の位置がある程度決まってしまうからです。例えば、道路が南側にあれば南入りの玄関になり、北側にあれば北入りの玄関になるのが一般的です。
日本人は日当たりを気にしますので南側道路を好みますが、当然土地価格も高くなります。仮に日当たりの良い南側道路の土地を購入したとします。南玄関で計画してみると、リビングのスペースが確保できない、駐車場の屋根が視線に入り落ち着かない、影もつくってしまう、といったこともあります。敷地の間口の幅にもよりますが、見落としがちなポイントでもあります。
土地を購入する際、南入り玄関となる南側道路、或いは北入り玄関となる北側道路。改めてその注意点を確認しましょう。
南入り玄関と北入り玄関の注意点
南入り玄関
南側道路で南入り玄関の良さは、自分の敷地の奥行きに道路幅をプラスした開放感と、日当たりの良さでしょう。道路幅は建築基準法で最低4mは確保しなければなりません。したがって反対側の家の影になることはないでしょう。注意しなければならないのが、南側の庭を少しでも広く確保したいということで、建物を北側に寄せます。するとその地域が第一種低層住居専用地域であれば、北側斜線制限というとても厳しい規制があるということを覚えておいて下さい。
隣地境界線から5mの高さまで上がって、そこから0.6または1.25の勾配でその制限内で建物の高さを収めなければなりません。
北入り玄関
北入り玄関の場合、南側の庭は南、東、西の3方向は隣家に囲まれているケースが多いかもしれません。何となく閉鎖的な印象を受けるでしょう。更に日当たりも心配です。したがって、南入り玄関と比べると設計力でそのマイナス部分をカバーする必要があります。ただ、南入り玄関では駐車スペースや道路からの視線に注意しなければなりませんでしたが、北入り玄関では注意する必要はないでしょう。むしろ、南入り玄関では南側の日当たりの良いスペースを玄関に取られていましたが、北入り玄関では南側すべてを人が集まれるリビングやダイニングに使うことができます。
そうなると、後は十分な日当たりをどう確保するかです。日当たりを考える時は、太陽高度の一番低い冬至(12月22日頃)をイメージしなければなりません。首都圏の太陽高度は約31.6度ですから、南側の隣家とは約5~6m位離さないと、1階に採光を得ることはできません。もし5~6mの距離を確保できなければ、一部吹き抜けをつくり、上階に高窓を設けることで採光を得るアイデアもあります。
まとめ
土地を探す際、南側道路や東面の角地等は日当たりを考えれば当然良いのですが、予算もありなかなか見つけにくいかもしれません。しかしながら、設計の工夫次第では北入り玄関も悪くはありません。近年はインターネットで情報を集めますが、仮に条件が悪くても現地に行き、その場所に立って周辺環境を見ることで条件の悪さを良さに変えるアイデアがあるかもしれません。もし自分に自信がなければ、建築家と一緒に行ってアドバイスを受けても良いでしょう。
建築家探しも、土地が決まってからではなく、土地探しから一緒に参加してもらうこともできます。それぞれの専門家の力を借りながら、自分の理想とする家を実現していくことです。
ミニ解説
・道路の幅員は4m以上
土地は建築基準法で定められた幅員4m以上の道路に2m以上接していなければなりません。これは緊急時に消防車や救急車が通れる経路の確保が目的です。
・高窓(ハイサイドトップライト)とトップライト
【高窓】天井に近い場所に設置する窓。採光や換気だけでなくプライバシーを確保しやすい。
【トップライト】屋根面につけられた窓のことで、通常の窓の約3倍の採光量が確保できます。
・夏至と冬至
夏至は日の出から日の入りまで時間がかかり、昼が最も長くなります。対して冬至は昼が最も短く、夜は最も長くなります。夏至と冬至では太陽の上がる位置が変わります。東京の場合、南中時(太陽が真南にある時間)の太陽高度は、夏至が78.4度、冬至は31.6度となります。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。