家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
構造・工法を選択するチェックポイントは
生活に対する考え方をより明確にする
一般に住まいに用いられる構造・工法は、木造軸組工法(在来工法),2×4工法(ツーバイフォー),プレハブ工法(プレファブリケーション),鉄骨造,鉄筋コンクリート造などに分けられます。家を建てる際、どの構造・工法を選択するかは、施工性やコストはもちろん、将来にわたり生活の仕方にも大きな影響を与えます。
選択する際には、次のような項目をチェックしておくと良いでしょう。
・敷地への対応力はあるのか
・地盤との相性はどうか
・敷地にはどのような制限があるか(防火地域と準防火地域など)
・希望の間取りや大きな空間を実現できるかどうか
・将来、増改築の予定はあるか(増改築に適した工法があります)
これらのチェック項目を考えながら、それぞれの構造・工法のメリット・デメリットを知っておくことが大切です。また将来、親と同居や子どもの独立など不確定要素が多い場合は、増改築ということもあるかもしれません。それらも含めて生活に対する考え方をより明確にしておくことで、希望に合った構造や工法が選択できるのです。
それぞれの構造・工法の長所・短所は
◎木造軸組工法(在来工法)
日本で最も多く採用されている工法。柱や梁などの骨組みを木材で作る工法です。
和・洋どちらのデザインも可能で柱を見せることも隠すこともできます。
【長所】
・構造上の制約が少なく、小刻みに柱や壁を動かす事ができるため設計や間取りの自由度が高い
・変形地や狭小地に対応しやすい工法
・大きな窓はもちろん、開口部はどこにでもつくることが可能
・増改築が容易で部材も豊富
・どの施工業者でも対応が可能
【短所】
・床下、壁中などの湿気対策がしっかり施されていないと、木が時間をかけて腐ることがある。
・施工会社の考え方や職人の技術によって、仕上がりに差が出やすい
・大きな吹抜け空間をつくるには、特殊材を使わないと難しい
・含水率など木の乾き具合が悪いと、木がやせたり反ったりする可能性がある。
◎2×4工法(ツーバイフォー)
断面の寸法が2×4インチの木材で組んだ枠に合板を張って壁をつくる工法で北米から入ってきました。床、壁、天井の6面で建物を支える箱型の構造はそれぞれの面が力を分散して受け止めるので、優れた耐震性を発揮してくれます。木造軸組工法(在来工法)は、「点」で力を受けるのに対し、2×4は、「面」で力を受けます。
【長所】
・6面体で支える箱型構造のため、強い耐震性が得られる。
・構造体に隙間がないため、気密性、断熱性、防火性に優れている。
・施工方法に公的な基準があるので品質が安定し工期も短くなる。
【短所】
・壁の面で強度を保っているため設計の自由度は低い
・増改築がしにくいところがある。
・開口部(大きな窓など)を設けるのは難しい
・一体でつくられるので2階の音が1階に伝わりやすい。
・内部結露が起こりやすい。
◎プレハブ工法(プレファブリケーション)
プレファブリケーションとは、あらかじめ工作されたという意味で、工場で用意した部材を現場で組み立てることをいいます。部材を規格化しているので、現地での作業も容易で工期を短縮することができます。プレハブ工法は、素材ごとに木質系、鉄骨系、コンクリート系に分かれていて各社ハウスメーカーがもっとも得意とする工法です。
【長所】
・部材を工場生産するため品質が安定している。
・マニュアル施工のためコストの軽減が図れる。
・工期がとても短いのが特徴
【短所】
・構造が規格化されているため変形地・狭小地には向きません
・間取りの変更、リフォームがしにくいケースもある
・設備機器や仕上げ材などが限定されることもある。
その他の主な構造・工法
その他の構造としては、鉄骨造(S造)と鉄筋コンクリート造(RC造)があります。
S造は、間取りや開口部の自由度が高く、大空間が作りやすい構造です。自由度が高いので増改築も容易にできます。
RC造は、ラーメン工法と壁式工法があり、柱や梁が室内に見えてくるのが、ラーメン工法です。壁式工法は、壁で力を受け、柱のないすっきりした空間が作れる為、住宅では多く採用されています。特に打ち放しのコンクリートが持つ独特な質感は魅力的で、建築家は好んで使います。
又壁に厚みがあるため遮音性や断熱性が高いのが長所ですが、建物自体が重くなるので地盤の強化とコンクリートの養生期間(固まるまでの時間)を十分とることが不可欠です。したがって、工期も長くかかり現場経費の負担も多くなるので、どうしてもコストアップになってしまうのです。
アドバイス
「どこに家づくりを頼むか」という依頼先選びは、構造・工法を含めて、家づくりを成功させる最大のカギを握っているといえます。
建築として魅力ある工法はもちろん、長い時間軸で住まいを考え、自分達が一番大切にしているところに価値基準を定め、ライフサイクルコストも合わせて考えてみると良いでしょう。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。