家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
外壁の色はどう選ぶ
基本は町並みに美しく溶け込むこと
家をつくるとなると、「ワクワク」というか、楽しみなものです。しかしながら、竣工後、住んでみて「あの時少し高かったがもう1ランク上の設備機器を選んでおけば良かったかな」とか悔いが残ることもあるでしょう。悔いが残らないようにするには必ず一度検討して納得して進むことです。
家づくりは、次から次へと決めていくことが沢山あります。その中で迷う項目の一つに色決めがあります。設備機器などは性能や価格等で検討できますが、色決めはそうはいきません。どちらかといえば感性が求められる箇所かもしれません。
特に外壁など大きな面積を占める色決めは建物の印象を大きく変える程のパワーを持っています。
メンテナンスや汚れを気にして強い色を選ぶと周囲から浮き上がることもあります。色選びの基本はやはり町並みに美しく溶け込むことです。やはり帰宅して自分の家の外観を見てほっと安堵できる誇らしい家にしたいものです。
まずは外壁材と色選びの基本について考えていきましょう。
外壁材にはどんな材料があるのか
外壁材の仕上げは水を使って仕上げる材料(湿式)と水を使わないで仕上げる材料(乾式)があります。塗り壁とサイディングです。塗り壁は左官屋さんがコテを使って塗るので技術が必要です。一方、サイディングは板状のパネルになっていて窯業系、金属系、木質系、樹脂系の4種類があります。もっとも多く使われるのは、セメント質と繊維質を主な原料にしている窯業系です。
2つの仕上げ材を比較すると次のようにまとめることができます。
塗り壁とサイディングの比較を一言でいうなら、建物の目地を多くするのか、少なくするのかです。目地を多く入れれば建物はやや分割したイメージになり、一方、目地が少なければ固まった形態に見えます。このあたりの判断は建て主が何を優先して決めていくのかにもよります。
色を決める基本は
・日照率から考える
明治時代に建てられた赤レンガの東京駅舎は丸の内側にあり、西の方向を向いています。西に沈む太陽のオレンジ色が赤レンガに反射し、冬はとても美しく、設計者の意図が感じられます。
建物の外観の色は太陽光線の照射時間ととても関係が深いのです。
日照率の良い地域では明度や彩度の高い色を好み暖色系の嗜好になりがちです。一方、日照率の悪い地域、つまり年間を通して比較的曇りがちの地方では明度や彩度の低い色を好みます。淡い灰色がかった中間色やくすんだ色が好まれるのです。どちらかといえば、寒色系の嗜好です。
南の島などで派手な色布やプリント地を好むのも、太陽がギラギラ照りつけるところではそれとの対比で強い暖色系で立ち向かわなければ感覚的に耐えられなくなるからです。ちなみに東京の日照率は45%くらいです。従ってベージュ、チャコール、パステル調が落ち着くといわれています。
・草木の葉から考える
自然界にある草木の葉の彩度は3.5~6.0で明度は4~5くらいです。ちなみに緑のイチョウの葉は彩度が6で明度が5です。人間の手の甲の明度は7です。これらを参考に考えると外壁の色はあまり暗くせず、明度9くらいにするとよいのです。屋根は落ち着かせるため4くらいです。彩度は1~2くらいに抑えると周囲の緑との調和が図られます。例えば7.5YR9/1、10YR9.2/1、2.5Y9/1.5、5Y9.2/1、あたりの明るく優しいベースカラーです。
(Y:黄、R:赤、色相YR 明度/彩度を表す)
佐川旭からのメッセージ
近年は窯業系サイディングが多く使われている傾向にあります。色、デザインなど選ぶ種類が豊富にあるからでしょう。特にハウスメーカーは様々な建て主に対応しなければならないので多く採用しています。例えば、1階と2階で色分けしたり、壁一面だけ違うデザインにしてアクセントカラーとして使うなど自由な組み合わせの住まいもあります
一方、こだわりのある建築家はシャープで都市的なイメージを表現すべく金属系サイディングを採用したり、建物の形の美しさを塗り壁で魅力を出している例が多くあります。いずれにしても外壁の仕上げと色は厳しい自然条件に耐えなければならないという事と、住まいとしての風格も大事にしたいところです。
色彩は設備機器等の機能のレベル選択とは違います。迷った場合は設計士などにアドバイスを受けながら決めていくとよいでしょう。
ミニ解説
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。