家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
密集地・狭小地で快適な家づくり
敷地が狭くても都市に住みたい
近年は首都圏を始めとし、大きな都市の地価上昇に伴い、建設工事に掛けられる予算もシビアになりつつあります。それでも「敷地面積を減らしてでも都市に住みたい」という希望者は多くいます。都市の暮らしは社会的なインフラ整備のみならず、利便性も高く躍動感があり魅力的であることは間違いありません。
密集地や狭小地を購入して、快適な住まいをつくるためにはどんなことに注意をし、考えていけばよいのかを探っていきましょう。
敷地の最低面積に注意
狭小地とはいえ、生活が成り立たない広さでは住むことも出来ません。そこで東京都では、環境の維持を目的に自治体ごとに敷地の最低面積を定めています。例えば多摩部にある9つの市については100㎡~120㎡、23区では目黒区、中野区、杉並区、板橋区は60㎡、世田谷区、練馬区、江戸川区は70㎡と定められています。指定された面積を下回ると、建物の建築が認められないため注意が必要です。また自治体によっては更に細かい条件である「地区計画」が作成されている自治体もあります。狭小地を購入する際は、必ず購入予定地の自治体ホームページを確認しておくことです。参考に札幌市や福岡市などの地方都市では、「戸建住環境保全地区」であれば「165㎡以上」と広い敷地を定めている自治体も存在します。
快適な家のつくり方ポイント
①敷地を最大限活かす
狭い敷地を最大限活かすには「縦方向のスペース」を十分に活かすことです。例えば地下室に関しては、地上に出ている部分が1m以下など一定の条件を満たすことで、合計床面積の1/3までの面積が容積率の算定に含まれず、緩和を受けることができます。ただし、地下は建築コストが高くなります。防水工事も入念に行い、水の浸水や結露対策も不可欠なので、施工会社とよく相談するようにしましょう。
地下の構造は鉄筋コンクリート造になりますが、上階は木構造(在来工法)の混構造とします。大切なことは敷地の形状に対応でき、設計の自由度を高める工法を選択することです。
②快適な室内環境をつくる
・遮音と防音対策をしっかりと
都市の暮らしは人通りも多く、特に密集地であればより騒音が気になります。そうなると窓は閉めきったままになりがちです。音は眼に見えないため、生活をし始めてようやく気になるものです。プランニングの段階から十分な遮音と防音対策をしておくことがポイントです。
窓のデザインも引き違いサッシより縦すべり出し窓等の方が、遮音性があり、ガラスも複層ガラスよりトリプルガラスの方が遮音性能だけでなく、省エネ性能も高くなるため、部屋の用途に応じて使い分けることも考えてみましょう。
さらに密集地や狭小地で、意外な落とし穴が給排水管の設計です。室内のどこかにPS(パイプスペース)を設けるのですが、静けさを保ちたい部屋があれば、出来る限りその部屋から距離をおき、さらに排水管に防音シートを巻くなど対策を講じる必要があります。
・プライバシーを保ちつつ光と風を取り入れる
密集地であっても狭い敷地であっても人が生きていくためには光と風、自然の緑はとても重要です。
一般的な敷地において、仮に建蔽率を50~60%とすると外部空間は50~40%となります。ポイントはこの外部空間をどう視覚的に室内に取り込むかで、より空間を広く感じさせる事ができるのです。例えば庭の周りを光と風を通す格子(ルーバー)などで囲み、中央に植栽を植えて中庭風に設える方法や、デッキで庭と室内をうまくつなげ、空間の一体化を図ることもアイデアの一つです。
プライバシーを保ちつつ、光と風を取り入れる
格子などで囲み、植栽を植えて中庭風に設える
敷地に高低差をつくり目線がずれることで、外部の視線を遮り、窓を開放して庭も室内のように見えるようにすることで、体感面積をより広げることもできます。
このあたりの工夫はプランニングの段階で設計者の力量も求められるかもしれません。
さらに採光・通風を確保するには、トップライトやハイサイドライト等がよく使われる手法です。高い位置にある窓なので、視線が入らず、プライバシーが保たれますが、日射熱対策も考慮しておくことが必要となります。
③万一の災害に備えて
・防火対策
住宅が密集している都市においては防火対策が重要です。都市における敷地は防火地域や準防火地域に指定されており、建築の構造や仕様に規制があります。それらに準ずれば万一火災を受けたとしても逃げる時間を確保することが出来ます。ただ、敷地の形状が旗竿といった路地奥だったりすると、避難経路が塞がれる事も考えられます。災害はいつも想定外で起きるため、万一に備えて日常から心構えをつくっておくことが求められます。
・防犯のためにはオープンな外構に
密集地になると、空き巣対策も検討する必要があります。都内における侵入窃盗認知件数は年間で1万7千件(令和5年警視庁調べ)、そのうち一戸建住宅では30.5%と最も多いのです。侵入手段はガラス破りが約7割なので、防犯ガラスや防犯フィルムを貼ることで、一定の防犯性能を上げることが可能です。窓自体も設置高さを上げることや、目の届きにくい窓であれば、防犯カメラの設置を検討してもいいかもしれません。
また、普段から近隣と良好な関係を築き、隣家の目が届きやすいオープンなエクステリアにしておけば、不審な人物が侵入する余地を与えないことにつながります。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。