家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
アニメドラマから学ぶ住まいづくり
2つのアニメドラマの共通点は
毎週日曜日の夕方、2つのアニメドラマがテレビ放映されています。
サザエさんとちびまる子ちゃんです。
サザエさんは46年間、ちびまる子ちゃんはトータル22年間という長寿番組で、これだけ長く放映されるということは当然それなりの視聴率があってのことです。視聴率がとれる理由は、共に三世代同居の家族ということ、内容に成熟さと安心感があるからです。見る側の理想というには大げさだけれども、このような安定した毎日の暮しがあればよいなという憧れも感じさせてくれます。
建築的視点からいえば共に縁側や廊下があることです。ドラマの中で縁側や廊下での出来事を上手くとり入れ、ストーリーの幅を広げ楽しく変化させているのです。
間取りを想像するとサザエさんの家は田の字型の間取りに縁側があり、ちびまる子ちゃんの家は廊下が真ん中にある中廊下型の間取りだろうと想像できます。
現代の住まいづくりは
現代の住まいはどうでしょうか?
近代化にともなって核家族が増え、三世代同居の家族は減少し、立派な長い廊下や縁側なども姿を消しつつあります。一般に求める敷地も狭いということもあって廊下や縁側は設けず大きな空間をとり、その中に階段を入れるリビングイン階段なども多く見受けられるようになりました。あまり機能を分けず大きな空間の中でフレキシブルに空間を使う考え方です。
ただその際用途のはっきりしているスペースを隣どうしにすると、距離が近すぎて煩わしさや窮屈さを感じることもあります。
用なきスペースを設けてみる
用途のはっきりしているスペースが隣どうしであれば、その間に小さな用なきスペースを設けてみるのもひとつの考え方です。
用なきスペースを設けることでスペース間の境界はやや曖昧となり、ひと呼吸する場、つまり間(余白)ができ、コミュニケーションが生まれやすくなる雰囲気を醸し出してくれるのです。
階段踊り場の一部を吹抜けとすることで、1階キッチンスペースとの境界が曖昧になり間(余白)が生まれます。キッチンスペースで作業中であったとしても、2階とのコミュニケーションを容易にとることができます。
場をつくっていく
ちびまる子ちゃんの中廊下は南側と北側にはっきりと部屋を分ける役割を担っていますが、部屋から廊下を出て「遊べる場」、あるいは「つなげる場」という場をつくってくれています。
サザエさんの縁側は居室と庭をつなぐ「コミュニティの場」、あるいは雨の日洗濯物を干せるなど「多目的の場」もつくっています。
つまり間取りには見せ場も重要ですが子どもの成長にともなって隠れ場、逃げ場、遊べる場も大切ということです。
個人住宅はいたって個人的でありますが家族のコミュニティをどこでどのようにつくっていくか、ただ単に機能的でかっこいいデザインばかりを考えるのではなく、かっこよくなくても家族のコミュニティデザインをどのようにして間取りの中に計画していくかがポイントなのです。
家族関係がやや希薄傾向にある現代社会の中で、今後より重要になってくるテーマではないでしょうか。
一般に階段の踊り場は上下階を繋ぐ通路で目的がはっきりしています。踊り場のスペースを広げパソコンコーナーの机を置くだけで、踊り場は家族のひと呼吸する場になってくれます。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。