家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
小さい家をヒントに家づくりを考えてみる
小さい家は工夫することが多い
建築家と一緒に住まいの間取りを考える際、まずは建物の広さと予算の関係を決めます。その際、例えば建物の広さを35坪とした場合、坪単価70万とすれば2,450万円となります。もし、予算内とすれば35坪を目安にスタートします。予算外であれば、20坪前後から考えてみることです。なぜなら、20坪という小さい家をつくるには狭さを感じさせない工夫・アイデアが必要です。そもそも住まいは心地良い小さな居場所の集合体なのですが、いつの間にか3LDKとか4LDKといった具合に、空間が記号化されたことによって画一的で魅力のない空間の集合体になってしまったのです。それでは小さい家をつくる際、どんな工夫やアイデアが考えられるのかをまとめてみましょう。
小さな家をつくる際工夫するアイデア
何といっても狭さを感じさせない工夫が必要です。それには次のようなことを考えることです。
①小さい家だからといって逃げ場を無くすのではなく、ところどころに逃げ場をつくることです。それは大きく暮らすことでもあるのです。
②天井の高さは、低めにすることで落ち着きを感じさせます。すべて天井が低く圧迫感がある時はどこかのスペースを高い天井にするなどメリハリをつけると良いのです。
③天井を低くして、建具を天井まで延ばすことで天井の圧迫感を減らすことが出来ます。
④生活動線は廻れる動線にすると住まいに奥行きを感じさせてくれます。
⑤壁で仕切るのではなく、家具で仕切るほうが広々とした空間となり、また家具に収納スペースがあればスッキリとします。
⑥キッチンは常識的な寸法に捉われないことです。捉われると他のスペースにしわ寄せがいくこともあります。
⑦窓はたくさんつけないで、数を減らすことが落ち着いた空間をつくり出すコツです。
⑧扉は引き戸として、出来るなら引き戸が全部壁の中に入る引込戸にすると良いです。
⑨置き家具ではなく造り付けの家具にすることで統一感がでます。さらに家具のヴォリューム感に気を使い、奥行は小さく高さは低く抑えることです。
⑩外部に建物本体のデザインと合わせた物置があると何かと重宝します。
以上、10項目をあげてみました。勿論、これらの項目は35坪、40坪といった広さの住まいにも採り入れることで空間は豊かになっていきます。
小さい家から学ぶ心地良い空間のつくり方
◎ここでは大きく2つのことを考えてみました。
ひとつは常識的な寸法に捉われないこと、もうひとつは住まいの質をあげるという考え方です。
・常識的な寸法に捉われない
住まいの常識的な寸法は天井高2.4m、天井フトコロ60㎝で階高3.0mになります。1階の床から2階の床まで階段で上がるとすると、け上げ20㎝とすれば15段で上がることになります。もし建てようとする敷地がきびしい北側斜線制限があると、敷地境界線から垂直に5m上がって0.6の勾配内に建物を収めなければなりません。
一般に考えれば2階部分の北側は天井が低くなり、使えそうもありません。
そのような敷地条件であれば、平面計画も大切ですが断面計画をきっちり詰めて検討する必要があります。
・住まいの質を上げるということは
一般的に住まいは、建ぺい率や容積率の制限いっぱいまで使って建てます。誰もが少しでも床面積を広く確保したいので当然です。床面積が広くなれば予算も多くかかります。そういった時に予算がないから仕方なく小さい家を建てるのではなく、むしろあえて小さい家にして住まいの質を上げるという選択です。
ただ単に既成寸法に既製品を組み込み均質な空間にするのではなくオリジナリティあふれる空間にし、生活を豊かにするという考え方です。
例えば浴室のユニットバスの既製品では窓の位置も天井の高さも決められてしまいます。それに比べてハーフユニットは腰から下は既製品ですが上部は自由になり、空間の質をあげることが出来ます。近年は、ユニット化された製品が多く出廻るようになり、住まいはいつの間にかユニットやシステム製品の集合体のようで空間の質は画一的になります。
実例を通して
・階段部分に本棚を置き、逃げ場をつくる。
・天井の高さ2.2mであっても天井は仕上げないので高く感じる。または、メリハリをつけることでさらに高くなる印象を受ける。
・階段下に地窓を設けることで広さを演出する。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。