家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
住まいのウンチクを知って活かす②
ザラザラした本質的な情報をつかむ
2021年6月号で「玄関と勝手口」、「日本語と間」、「窓と間戸」をコラム形式で掲載したところ、有難いことに大勢の方に読んでいただきました。
今回はその第2段です。
住まいづくりに関してはSNSの普及によって容易に情報が得られる時代になりました。したがって、どんな情報を得てどう活かすかのプロセスも変わっていきます。しかしながら、時には表面的な「ツルツル」した情報に振り回されるケースも少なくありません。もう少し本質的な「ザラザラ」した情報をつかんで住まいづくりに活かしてほしいと考えています。
今回は「坐と座」、「光と生活」、「心地よい色」の3テーマをコラム形式でお届けします。気軽に読めるよう500~600字数でまとめています。家づくりのヒントにしてください。
坐と座
私たちは日常生活を営むために職場や家庭の中でさまざまな行動をとりますが、その中でも仕事、食事、くつろぎ、学習等で過ごす時間が多いのではないでしょうか。そして、これらの行為は殆どの場合において、椅子、畳、ソファにすわった状態で行っています。この毎日繰り返される「すわる」という行動を「坐」と「座」という漢字の成り立ちの違いから考えてみます。
まず「坐」ですが、土という字の両側に向かい合った2人が土にひざをつけた状態での動作や姿を表し、「座」の广(まだれ)は家屋や建物を示し座席など家の中で座る場所を表しています。したがって、坐は土に近い位置なので心理的にも落ち着き周りとの一体感をつくることが出来ます。
一方、「座」は床のある屋内の座席をイメージするので、個々の存在場所のある安心感につながります。これを目線の高さで考えてみましょう。人間は同じ高さで向かい合うと意外に話しづらいものですが、そこに少し目線のずれがあると心理的な圧迫感が無くなり話しやすくなります。現在、「坐」と「座」は广のある漢字で統一されていますが「坐」と「座」の漢字の違いを心に留めながら、广がつくる目線のずれを住まいの中でどう仕掛けていくか、時にはそんなところからもデザインのヒントを拾い集めることができるのです。
光と生活
秋の空の光は温かみが感じられます。特に夕暮れの空を染める夕日、そして満月の夜の月明かりなどはとてもやすらぎを与えてくれるものです。こうした光にはその光の色に相当する温度があるということで専門用語では「色温度」といいK(ケルビン)という単位で表します。色温度は快晴の天空光が12000Kともっとも高く、日の出、日没前後が2000Kともっとも低くなります。
実は、この数値は室内における照明計画の目安にもなっているのです。日中室内で作業をするなら、照明の明かりは昼の光と同じ色温度を選択し活動的な雰囲気にします。そして、一日の終わりには夕日の光と同じ赤味のある電球色を取り入れることで、くつろぎモードを演出します。ちなみに月明かりの色温度は意外に明るく約4000Kで、落ち着いた中にも開放感を感じる色です。また晩秋の夕焼けの色温度は、約3000Kでもっとも安らぐ色です。しかし、日本の住まいは昼夜ともに同じ昼の光の色で過ごしている家が多いように思います。夜になっても働くモードということですね。そこで例えば、家族が集まる団らんの場だけでも温かみのある明かりを使い、リラックスした雰囲気をつくってみてはいかがでしょうか。自然界の光の変化を室内に取り込むことは、心理面や健康面への働きかけはもちろん、日常の活動にも大きなプラスの影響を与えてくれるのです。
心地よい色
紅葉が美しい季節となりました。見る人に癒しや爽快感を与えてくれる木々の葉ですが、街並みを構成する建物の色を決める際にも考慮されているのをご存じでしょうか。色の三要素は、色相(色味)、明度(明暗の度合い)、彩度(鮮やかさの度合い)からなり、これらは数値によって表されますが、この場合に重要なのは「彩度」です。彩度の基準は無彩色を0とし、鮮やかな原色に近づくほど数字が大きくなります。植物の葉の彩度は3.5~6.0ですが、仮にこれと同じ彩度を建物の外壁に用いると、自然環境の中ではやや浮いた感じとなります。そこで彩度を1~2くらいに抑えると緑との調和が図られ、美しい景観がつくられることから、自治体によっては外観の彩度を景観条例として定めているところもあります。
次に住宅の室内に目を移してみましょう。インテリアの大部分を占める床、壁、天井の内装や主要な家具類は、やはり彩度を抑えたアイボリー、ベージュ、グレーなどの中間色を使用することで調和と安らぎを感じさせてくれます。そして、ここにアクセントカラーとして彩度の高いクッションや小物を置くことで、インテリアにリズムをもたらすのです。これは公園や庭先に咲く花々が街中を彩り、人の目を楽しませてくれる様子に重なります。心地よい色選びは自然を見つめ味わうことから多くのヒントが得られるのです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。