家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
住まいの色~基本的な選び方を知る
人の心に影響を与える色
人の暮らしを構成する基本的な三つの柱は、勿論「衣 食 住」です。なかでも「住」への関心が向けられるのは一番最後だと言われてきましたが、近年は少しずつ住への関心も高まってきたといえます。それは単に部屋数を満足させるプランではなく、自分達家族が楽しむためのスペースづくりをしようという傾向が見られるからです。
たとえば土間やデッキをつくり近所の人をよんで、食事をしたり交流スペースに活用する人もいます。あるいは持ち物をできるだけ減らし必要最小限の物だけで暮らすミニマリスト家族もいます。
これらは人と人、あるいは人とモノとの関係性をもう一度ふり返ることで、暮らしに潤いや豊かさを訴求しているともいえます。
そういった背景をふまえながら、室内の空間は好みの素材選びと色彩がとても重要な作業となってきたのです。その割には色彩への知識はとぼしく、これまで自分の生きてきた生活や体験にもとづいて色のコーディネートをしてきていることが多いように感じます。
あらためて色彩のもつ心理的意味を理解しながら、色彩のもつ基本的なルールやチェックポイントをおさえて色選びに活かしてみましょう。
色のバランス構成は和室に学べ
和室に入るとなぜか心と体の力が抜けて「フゥッ」と気持ちが楽になる体験は誰でも持っているでしょう。それは和室の色彩が白(障子)とベージュ系(床、壁、天井)でまとまっているからです。
私達の身体は光や色によって筋肉反応を起こします。この反応の度合いを「ライト・トーナス」といいます。
ライト・トーナスとは光や色に対する筋肉組織の緊張度を表す手法のひとつで「23」という値が最も弛緩した状態の正常値です。和室で使われているベージュ系はこの値が「23」になるので安らぐのです。
この値が高くなると緊張感を高めた空間になります。黄色は明度も高く「30」なので非日常を感じさせるため、リゾートホテルのエントランスや壁の一面などアクセントとしてに使われていることが多く、橙は「35」、赤は「42」と少し高い値となっています。看板広告などに赤がよく使われているのは目立って存在感を表したいからです。
寒色系と暖色系に分けて考えてみる
寒色系とは「青・緑青・青緑」などで、「水・空・氷」を暗示し心理的に冷たく感じさせます。一方暖色系は「赤・橙・黄」などの色で、「太陽・火」を暗示するので心理的に暖かさを感じさせてくれます。したがって浴室やトイレなど肌を表す場所で寒色系の色彩を使うと、夏は良いのですが冬は寒い印象を受けることになります。
ちなみに、この寒色系と暖色系の心理的温度差は3℃もあると言われており、ブルー系のカーテンをピンク系に変えたら部屋が暖かくなったと感じる程です。
料理にも違いがでます。たとえば、赤身の刺身を寒色系と暖色系の蛍光灯のもとで見比べると寒色系の蛍光灯のあかりでは、不味そうに見えるといいます。
すべて色には感情があり、それは人間が色を心で受け止めるからであってやむ得ないところなのですが、少しの工夫で雰囲気はかなり変わるということです。
基本の色の選び方は
色彩計画に迷ったら中間色のベージュカラーをベースに使うことです。暖色系や寒色系の色はアクセントカラー程度に使うとよいのです。近年は白色を外観、内観に使う人が増えてきています。白は素材がバラバラになった時、他の色と無理なく調和する懐の深さを持ち合わせている色であり、まとめ役として使いやすいからなのです。ただあまりに白を使いすぎてしまうと、無機質な空間にもなるので注意が必要です。
一般に面積の大きい「床・壁・天井」はベースカラーとして70%。次に建具や収納家具はコントロールカラーとして25%を目安にするとよいのです。あとはアクセントカラーを使って空間をいかに引き立たせるかを考えて下さい。仮に自然素材を使うのであればそれを中心に考えて行くことです。それは自然素材の色はつくれない色で限られた色だからです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。