家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
建築家を選ぶポイントと心構え
相性が重要
建築家を選ぶポイントは一言でいうなら「相性」です。さらに細かくいうなら作品の好みとか、人柄等があると思います。しかしはじめの打ち合わせから完成まで少なくとも10~12ヶ月付き合うことになります。気の合わない人であれば家をつくるワクワクもなくなり、打ち合わせも嫌になってくるでしょう。
仮に施主の要望に矛盾があって指摘された時でも、相性さえ良ければそうしたことに感情的に対立することはないでしょう。
一緒になって良いものをつくりだすための生産的な議論になっていくことが望ましいです。この相性だけはこれまでの作品や図面からだけではわかりません。ですから実際に会ってみて「この人なら意見が合わなくても喧嘩にならず議論ができる」と感じることが、建築家を選ぶ重要なポイントなのです。建築家といっても様々なタイプの建築家がいるので、5つのタイプに分類してみましょう。
建築家のタイプ
一般に建築家のタイプと言うと自然素材を多用する、あるいは光の採り入れ方が上手いなどイメージされますが、ここではそれよりも広く捉えた建築家のタイプを5つに分けてみました。
①非建築家の建築士
②住宅設計の経験が少ない建築家
③住宅設計の実績がある建築家
④建築が好きすぎる建築家
⑤デザインが過剰な建築家
それぞれのタイプについて解説していきます。
① 非建築家の建築士
このタイプの設計事務所で仕事をする建築士は、建築家というより司法書士などのような代願業者となります。施工技術が優れていても、図面を描く能力のない工務店から継続的に確認申請用の図面を受注して、経営を成り立たせています。なので、こうした事務所では住み手側に立って工事監理ができないことが多くあります。
② 住宅設計の経験が少ない建築家
建築業界で名前を知られた建築家であっても、あまり戸建て住宅の設計をしていない人も中にはいます。住宅には生活をするスケール感とサイズ感が求められます。さらに用と美も求められます。特に「用」は建築家自身が実際に経験しないとわからない所があります。戸建住宅に習熟していない建築家には、たとえ有名建築家であったとしても、依頼しないほうが無難かもしれません。
③ 住宅設計の実績がある建築家
住宅設計の実績がある事務所は比較的小規模事務所が多く、スタッフは2~5名前後でアトリエ的です。1年間で設計監理をする住宅は5~8軒ほどで、施主との打ち合わせを大切にしながら時間を掛けてつくりあげています。完成した住宅が「作品」となり、それを営業に仕事の受注に繋げているのです。住宅はこういった事務所の建築家に依頼すると良いでしょう。
④ 建築が好きすぎる建築家
このタイプの建築家はとても器用な人が多く、住宅だけでなく商業建築や公共施設などでも才能を発揮します。商業建築で使う内装材などの造詣が深く、住宅にも使用したりします。ですが、住宅は暮らしを楽しむ要素も必要なので、あまり人工的なものが選定されていると、出来たばかりは楽しめるのですが、住み続けてみると落ち着かず、経年美の美しさを感じられない場合があるので注意が必要です。
⑤ デザインが過剰な建築家
このタイプは④の建築家と似ている所があります。あまりにもデザインが過剰すぎると建物のコストはもちろん、近隣環境からも浮いてしまいます。さらに町並みの調和を乱してしまう可能性もあります。デザインにコストを掛けることはいいことですが、過剰にならないコストバランスの視点も大切にしなければなりません。
施主の心構え
建築家に依頼して住まいをつくるというのは情熱も必要です。なぜなら施主は住まいが完成に至るまで700~800程の質問を建築家から受けます。それを一定の時間内で答えなければなりません。まさに夫婦にとっては「研修の場」でもあります。一体何のための「研修」かというと、夫婦になるため、大人になるため、あるいはパートナーとして今後も覚悟して生きていくという、いわば通過儀礼ともいえます。よく住まいは「一生に一度の高額な買い物」と言います。しかし、それよりも重要なことは自分の人生を決めていく「研修の場」と捉えることです。このプロセスを楽しめる人は建築家に依頼すると良いのです。
一方で、「打ち合わせは面倒だ」「全て会社が決めてくれた方がラク」と感じる人は、住宅メーカー等に依頼したほうがいいのかもしれません。
アドバイス
かつてデザインは「意匠(いしょう)」と呼ばれていました。意匠の「意」には心のなかにあるイメージ、「匠」には形をつくりあげるという意味が含まれています。私達は住宅に限らず車や服を購入する際も、買い手としての思想や思い入れがあると思います。ましてや住宅ともなれば、どの様な考え方や哲学を持っているかを自己分析して、潜在していた新たな自己を発見する探求力も必要になってきます。
住まいづくりにおいて、自分なりの建築意匠を意識してつくりあげることで、自邸に対する愛着や誇りが生まれ、建物の価値を高めることができます。それを共有できる建築家と出会い、ぜひ「研修」を受けてみて下さい。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。