家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
施主・建築家・工務店 三位一体の住まいづくり
日本は設計と施工が分離されず
住宅には「健康」「安全」「人権」「環境」などと並んで、当然ある一定レベル以上の質が保証される仕組みが備わっていなければなりません。そのために建築基準法や建築士法があります。医療の分野では「医師」、司法の分野では「弁護士」が営利追求の側ではなく生活者や社会主義の側に立つことを理念としています。
建築の分野では、欧米では一般的なのですが、設計施工分離の考え方を根底としています。
しかし日本は残念ながら設計と施工は分離されず、同じ会社が行ってもよいことになっています。そうすると第三者の眼が入らず欠陥住宅となったり、業者の都合で工事が進められてしまう場合があります。
三位一体でもそこに信頼関係がないとダメです。
理想的な工事の依頼体制は、施主×建築家×工務店=三位一体ですが、そこに信頼関係がつくれないとダメです。
2つの事例を紹介しましょう
・建築家と工務店に依頼した例
施主は友人から建築家を紹介され、建築家のこれまでの実例作品を気に入ったので設計を依頼することにしました。基本設計もまとまり実施設計に入った頃に「工務店はどうしましょうか」ということになり、三社の相見積もりとしました。
落札したのは一番価格の安い工務店で、そこは建築家との仕事は初めてでした。
工事に入って施主は建物の仕上がりにとても不安を感じていました。それは、建築家は工務店の悪口、工務店は建築家の悪口を言うことが時々耳に入ってきたからです。
心配しながらもなんとか工期内には建物が仕上がり、ホッとして引渡しを受けました。
ところが住み始めて一ヶ月を過ぎてから不具合が起きました。しかし工務店に連絡をしても全然対応してくれません。建築家にお願いしても工務店とはギクシャクしているようで頼りになりません。
結局近くのリフォーム屋さんに直していただいたということです。
この例では、たとえ工務店は建築家と初めての仕事だとしても、何とかコミュニケーションがとれなかったのかと思います。一方で、私自身は三社の見積もりとすべきではなかったと考えます。なぜなら工事金額が約5000万円以上であれば相見積もりをして差が出るかも知れません。しかしながら図面がしっかり書かれていれば、2000万円、3000万円くらいであればそれほど差は出にくいものです。
それよりも竣工後にずっと建物を気持ちよく見守ってくれて信頼できる技術のある工務店を選ぶべきです。
仮に施主から相見積もりの話しがでた際にそのあたりの話しをきちんとすべきなのです。
建物は引渡しを終えた時から施主との長い付き合いが始まるのです。
・ハウスメーカーに依頼した例
工事現場には必ず担当の現場監督がつきます。ある程度工期が進み、工事が少しずつ遅れていることが気になったので施主が現場監督を呼んで聞いたところ、その現場監督は他に7つの現場を担当していることがわかりました。
そして今月中にその中の3つの現場で建物の引渡しをしなければならず、ついこの現場の工期には余裕があったので、打ち合せ回数を減らしてしまったということでした。
また施主が一部土間コンクリートを打ってほしいとお願いした時には、コンクリートを打つ前に増額の見積りを出すという話でした。しかし見積もりが来ないうちに施工をしていたので、施主はサービス工事にしてくれたと捉えていた様です。
仮にここに第三者の眼が入っていれば、増額工事なのかサービス工事なのか、又その土間コンクリートは適切な施工がされて、割れやクラックの処理はしているのかなどの検証もできたはずです。
住まいづくりの王道にむけて
建物は完成した商品を買うものではありません。高い商品であればあるほどそこには思い入れが生じます。思い入れが生まれてくるのは自分が参加するからです。
参加するには時間はとられるし、面倒くさいでしょう。
しかし信頼できる人に出会い、それが一緒に集まって自分の家づくりに参加してくれる。こんなうれしい体験は人生に一度かもしれません。
当然うれしい体験を得るにはそれなりのリスクがありますが、リスクはきちんとした心構えを持っていればなくすことができるのです。
トラブルになってしまうのは施主にも責任があります。だから施主にも勉強を重ねて何が住まいづくりの王道なのかを見極めてほしいものです。
私は設計施工の分離と第三者監理による住まいづくりをおすすめしたいと考えています。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。