家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
健康住宅で心地よい空気の質をつくる
空気の質は清浄度、温度、湿度、気流で決まる
日本の住宅業界で、健康住宅が注目されるようになったのは意外と古く、昭和54年(1979年)「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」が制定されてからです。その主な内容といえば、断熱、気密性能を上げるための施策でした。
しかしその後、断熱材の施工不良による結露や、高気密住宅において化学物質を含んだ建材の使用などにより、住まい手がシックハウス症候群を患うトラブルが発生したのです。
これにより、国は平成15年(2003年)に「24時間換気システム」の義務付けをしました。つまり、室内環境をより良くするためには空気の清浄度に加え、温度、湿度、気流の4つの要素をバランス良く整えることが重要と言えるでしょう。
空気の質はどうつくる
室内空間は床、壁、天井で構成され、特に壁は窓とともに大きく室内の温熱環境に影響を与えます。そこで、断熱材と窓ガラスについて考えてみましょう。
・断熱材について
住宅の断熱材としてよく使われるのが、無機質繊維系のグラスウールと、木質繊維系のセルロースファイバーです。
グラスウールは、原料のガラスを高温で溶かし、細かい繊維系にします。ガラスは主にリサイクルガラスを使用しているので、とても環境に優しい材料です。繊維の密度によって種類が分けられ、この数字が高いほど断熱性能に優れています。例えば、10K・16K・24K・32Kといった数値です。工法や地域によって選定する仕様が変わりますので、設計者に確認してみるといいでしょう。
次にセルロースファイバーですが、一見すると埃の塊のようにも見える断熱材です。灰色で綿のようなフワフワした手触りをしています。原材料は新聞紙なので、元々は木です。細かく裁断された新聞紙は綿状となり、その中に動かない空気をたくさん含むことで、熱を伝えにくくするのです。
グラスウールは一定の規格があるので、きちんと施工しないと隙間ができ、この隙間が断熱不良を起こす原因となることがあります。しかし、セルロースファイバーは一気に吹き込む工法なので、隙間なく敷き詰めることが出来ます。当然、セルロースファイバーにも施工精度が現れますが、信頼できる会社があればおすすめしたい断熱材です。
・窓ガラスについて
窓は4つの要素の中でも、特に「清浄度」と「気流」に大きな役割を果たします。ただ、意外と見落としがちなのが温度(熱)です。この温度をいかにコントロールするかも、空気の質をつくる上で、とても重要なポイントになります。
夏場において冷房を使っていても、窓から入ってくる暑い陽射し(熱)は約71%あり、冬場は暖房をかけても窓から逃げていく熱が48%もあります。これらの熱に対処する窓は、樹脂サッシでアルゴンガス入りのLow-E複層ガラスです。
ただ、ここで注意することは「気密化」と「換気計画」もあわせて考慮しておくことです。これらは予め、設計段階で建築家や設計士と確認しておくことです。特に近年の住宅は、耐震壁や省エネ等で住まいの空間が外に対して「閉じる」傾向にあります。結露やカビなどの原因となる「湿気」に対しても配慮する必要があるでしょう。
佐川からのアドバイス
食べ物や水だけでなく、毎日当然のように摂取する空気は、住宅内の空気が大半を占めています。間取りの計画をする際は、この空気の質をどう考えるかが重要です。
これまで、日本の家づくりは物理的寿命に主眼をおいてつくられてきました。そして現代は「健康住宅」や「省エネ住宅」の家づくりです。
これからの家づくりは「財産」となる家づくりです。それは耐久性だけでなく、住んでいて気持ちの良い住まいです。気持ちが良ければ愛着が生まれます。愛着のある住まいは、当然住まい手が大切にしてくれますから、「経年の美」もつくられていくでしょう。
「健康住宅」で「空気の質」を考えてみる、そんなキーワードから「資産(環境、家族愛、バリアフリー等、様々な価値を含めて)」となる住まいづくりに繋がっていくといいですね。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。