家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
見積書はココをみてコストダウンを図る
コストダウンは難しいものです
昨今、建築資材は値上がり傾向にあります。家を建てようと考えている人にとっては頭の痛い問題であると同時に、コスト感覚にシビアにならざるを得ない状況でもあります。そうはいってもどこをどのようにコストダウンを図るのかを考えることは、初めての家づくりでは難しいものです。そこで、どの工事項目をチェックしコストダウンを図っていけばよいのかを考えていきましょう。
工事項目をチェックする前に
建売住宅やセミオーダーの住まいであれば、使われる建材や設備がある程度決まっているので、全体金額が掴みやすいと思います。しかし、注文住宅は掴みづらいところがあります。雑誌やネットでおおよそ、どの位の工事費用が掛かるのかを調べることができます。そこで目安になるのが坪単価(1坪=約3.3㎡/円)です。例えば、延床面積35坪の家を建てようとすると、1坪あたり90万円であれば、
90万円/坪 × 35坪 = 3150万円
と、全体金額が出せます。
坪単価はあくまでも大まかな概算ではありますが、大体の工事費用の目安として把握することができます。
工事項目のココをチェックしてコストの検討を
一般に注文住宅の見積もりは3つの項目に大きく分けることができます。
このうちの躯体工事は、基礎や木造であれば軸組などの構造部分なので、ここのコストダウンを図るとするとプランニング段階からやり直す必要が出てくるため、簡単にはできません。では、どこをコストダウンするのかというと、残りの60%を占める「仕上げ工事」と「設備工事」の項目です。
仕上げ工事と設備工事のどの工事でコストダウンを図るのか?
仕上げ工事と設備工事の中でもコストダウンのできる工事とできない工事があります。施主が工事内容を理解して検討ができるものは次の工事項目です。
〈仕上げ工事〉
・屋根工事→屋根材は何を選定するか、メンテナンス頻度はどうか、併せてコストチェック。
・金属サッシ工事→サッシの数をチェックし割引率を相談。
・内外装工事→外壁の材料や室内のクロス・塗壁の仕様を確認し、材料を変更してコストダウンを図る。
・タイル工事→タイルを貼る面積とタイル1枚あたりの価格をチェック。
・塗装工事→塗装する面積数量と何度塗装(塗り回数)するのかをチェック。
・家具工事→造作家具で金額が掛かるのであれば、システム家具を検討。あるいは大工さんに大枠だけを製作してもらい、扉などは建具屋さんに依頼するなどの分離で発注を検討する。
〈設備工事〉
・キッチン工事→便利機能など出来る限りオプションを少なくし、標準型に近い仕様を検討する。
・ユニットバス→デザインや浴室パネルの仕上げによって価格の差が大きいので確認する。同時に割引率をチェック。
・便器、洗面化粧台→割引率が大きい製品に変える。
・エアコン工事→エアコンは他との工事と絡まないので、自ら量販店などで手配してもよい。その際は工務店に相談することも忘れずに。
〈その他に注意すること〉
敷地条件でもコストがかかる要因があります。地盤改良が必要な軟弱地盤、接続する道路の道路幅が狭く2t車しか入れない、ガードマンが必要な敷地、工事用の車を駐車するスペースが無いなど、これらは工事費用をUPする要因になります。また、会社の規模によって現場経費、会社経費も異なるので説明を受けると良いでしょう。
コストダウンを図るための心構えと失敗
◎心構え
・ショールームはあくまでも「確認の場」
家を建てるとなるとつい力が入ってショールームに行きたくなると思います。そこで良いものを見てしまうと、「この位のものは採用しても大丈夫だろう」と良い製品を選びたくなってしまうのです。当然ですが、良いものはコストが上がります。さらに設備には「製品価格」とそれを設置する「工事費」も掛かることを忘れないでください。
むしろ、始めからショールームには行かず、おおよその全体金額が決まったうえで設計者にコストバランスを提示してもらったほうが良いでしょう。そして余裕が有るのであれば拘りの設備に変えればよいのです。ショールームはあくまでも「確認の場」として活用することをお勧めします。
・引き算の考え方
住まいづくりで夢が膨らむことは良いのですが、仮に予算オーバーとなればコストダウンをせざるを得ません。予算を出す段階は「足し算」の考え方、予算が出たあとにオーバーしたら「引き算」をするのが一般的な考え方だと思います。それで問題ないのですが、「これとこれは必要で、あとは要らない」というような、始めから「引き算」をしてみる方法も良いと思います。具体的な例としては「本当は1、2階にそれぞれトイレを設けたいが、1階だけでも充分ではある」というような考え方です。これはコストを下げるだけでなく、2階に子供部屋などの居室があれば、自然と家族の顔を合わせる機会も増えるので、結果としてコミュニケーションを図る機会を増やすなどのポジティブな効果も生まれます。
◎失敗
・施主支給の落とし穴
近年はネットショッピングで何でも個人で購入することが出来るようになりました。見積もり金額よりも安いからという理由で購入し、設置のみを依頼するいわゆる「施主支給」という形です。しかしここで注意したいのは、仮に取付けた製品が何年後かに水漏れなどを起こした場合、責任の所在が製品のメーカー側か、取付けた施工側か不明確になりがちで、トラブルの原因になることです。このようなトラブルが起きないために、事前に施工会社とよく打合せしたうえで実行していくとよいでしょう。
・コストを下げるためにサッシをペアガラスではなく単板のサッシにする
ペアガラスは既に一般的なものになりましたが、コストを下げられるからといって、単板のサッシに変更することは止めてください。単板では冬場は結露、夏は熱の侵入により、とても心地の悪い空間になってしまいます。さらに冷暖房の効率も悪くなるので、中長期的にみればコストアップの可能性もあります。
アドバイス
コストダウンを図るために一生懸命コストを調べたり、比較したりする施主がいます。もちろん大きな買い物なので当然かもしれません。しかし、度が過ぎると現場までその圧を感じてしまい、「言われたとおりに仕上げればいい」と考え、終いにはそれ以上の提案はしなくなってきます。きちんと比較した上で、その後は「他にコストを下げる方法はありますか?」といった、提案を受け付ける「余裕」を見せることも大切です。
コストダウンだけでなく、安くて良いものを一緒につくりあげていくという現場の「雰囲気づくり」も大切です。例えば頻繁でなくとも現場の職人さんに差入れをしたり、拘らないところは現場にすべて任せてみるといった心配りができれば、現場監督もより力が入って、会社の資材置き場に眠っていた良い在庫品を無償で提供してくれたりするかもしれません。コストダウンを図りながらも、気持ちの良い仕事をしてもらう心掛けも忘れないでください。
コストダウンは単に製品のグレードを下げることだけではなく、現場の納まり等を工夫したり、現場が動いている途中でも、発注前であれば仕様を変更してコストダウンを図ることができます。コストダウンは現場の状況を見ながらでも出来ることがあるのです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。