家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
「中古戸建を買う」注意するポイントは?
建築コスト高騰で中古戸建が人気
ウクライナ戦争による影響で、原油価格や物流コストなどの上昇により建材価格は高騰し続け、さらに職人の人手不足による労務費の上昇と、近年の新築住宅の高騰は留まるところを知らない状況と言えるでしょう。また、都市部の新築マンション価格は一般的なサラリーマンでは手が出せない水準まできています。
かつて日本は、ローコストの新しい家を望み、まだ十分使える住宅を、短い年月で使い捨てにしてきた「新築偏重」の住宅市場がありました。その結果、現在は空き家が増え、社会問題になっていることは言うまでもありません。
近年はSDGs(持続可能な開発目標)という概念が象徴するように、サスティナブルな社会の実現に向けた機運も高まりつつあります。ライフスタイルや価値観の多様化も進み、メンテナンスをしながら「今ある住まいを大切に受け継ぐ」という考え方が広まってきました。グラフのように中古戸建の取引は、ここ10年で約33%も伸びています。
※出典:東日本不動産流通機構
このような社会背景の中で、中古戸建を購入する良さや注意するべきポイントを整理してみましょう。
中古戸建の良さと注意するポイント
中古住宅を購入する良さは、主に次の4項目があげられます。
①新築住宅より安く購入できる
②物件を選択する幅が多い
③周辺環境を含めて、日当たりや視線など実物をみて決められる
④リフォームをして、自分らしい暮らしの実現ができる
といったところでしょうか。ただ、気になることは建物全体の基本性能に関することです。具体的には建物の耐久性や耐震性、さらには断熱性などです。設備機器の劣化や内装仕上げなどはリフォームで対応できるので、それほど心配する必要はありません。しかし、基礎や土台、構造躯体などの耐震性はどのように考えれば良いのか不安があります。購入にあたり、販売業者以外の専門家に依頼して、チェックしてもらうのもおすすめですが、その前に目安となるチェックポイントを確認して下さい。
まずは、1981年以前に建てられた住宅か、それ以後かを確認してください。1981年以降の住宅では震度6以上の揺れでも全壊しないよう、耐震性が見直され「新耐震基準」と言われています。さらに「2000年基準」では地耐力や接合部、偏心率を考慮し、より耐震性を増して建てられています。
仮に建物が古くても、周辺環境を気に入って購入したいのであれば、まずは築年数を確認してみて下さい。安く購入した分、リフォームに費用をかけることができます。耐震性を増すには基礎の地盤改良などは出来ませんが、リフォームによって耐力壁の追加や、規模や条件にもよりますが、制振ダンパーを取り付けて耐震性をアップすることも可能です。これは、製品価格で45~55万円ほどと低コストで対応することが可能です。
改修をどこに依頼する?
これまで改修やリフォームの費用といえば、300万~500万位が一般的でした。しかし現在は、1,000万~2,000万とかなり高額になっています。その際の重要なポイントは、やはりどこに依頼するかです。改修工事は新築工事より難しいので、実績のある会社、経験豊富な現場監督を抱えている会社に依頼することが求められます。
また、大規模な改修によってスタイリッシュでデザインされた暮らしを希望するのであれば、建築家に依頼する方法もあります。もしそういった考えであれば、始めに建築家を探し、物件探しから相談に乗ってもらうことも一つの方法です。
中古戸建の瑕疵責任は任意?
新築住宅は基本の構造部分に不具合があれば、10年間は保証する瑕疵保険への加入が義務付けられています。これは中古住宅においても加入を検討することが出来ますので、検討されるとよいでしょう。
また、売買後に欠陥や損傷が発覚した場合、売主が不動産会社なのか、それとも個人なのかによっても、責任のあり方が異なります。売主の多くは一般的には個人が多いです。個人の場合は重要な瑕疵があった場合、売主が負う「契約不適合責任」の取り決めが任意(通常は3ヶ月程度)となります。このあたりは十分確認しましょう。併せて、その他のサービスや保証期間も確認しておくことが大切です。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。