家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
5つの実例から学ぶトラブルを防ぐ心構え
施主のプロ化でより高い経験値が求められている
現在の住宅業界において施主の立つ位置が大きく変わってきています。その理由は言うまでもなくネットやSNSの普及・進展によって情報を容易に入手できるようになったことです。従って情報を頼りに様々な要望や意見、時には提案も求められるでしょう。そこで専門家はより高い経験値が求められることになります。しかし、その回答が遅かったり、曖昧であると不信感からトラブルに進展することになってしまうのです。
そこで今回は、実際におきたトラブルから施主はどんな心構えを持って工事に臨んでいけばよいのかを考えてみましょう。
5つのトラブル実例
実例①・・・解体工事でトラブル
施主は古屋付土地を購入し、知人の紹介で解体工事を済ませました。その後、着工のあいさつで近隣を訪ねた際「お宅の解体工事で外壁にひび割れが生じた」と言われ、実際にひび割れを見せられたのです。調査会社に見てもらったところ、明らかに新しいひび割れだったので、ゴタゴタもありながら最終的には解体業者に責任を取ってもらいました。
しかし、施主はこれから先を考えると気は重くなり、新築するというワクワク感は半減してしまいます。つまり家を建てるということは解体から始まっているということです。知人の紹介でただ安かったから、と安易に決めるのでなく、きちんとした工務店を決め、工務店の協力関係にある解体業者を決めることです。そうすれば、責任をもって工務店は管理をしながら解体工事をし、次の新築工事につなげていくのです。
実例②・・・施主支給でトラブル
近年はネットで建材や設備機器が安く購入できるので、施主支給をしてコストを下げたという人がいます。施主は木造アパートの改修工事で、ユニットバスの施主支給をしたいと現場に伝えてきたのです。現場も了解をして後日製品が届き、設置をしました。その後施主が現場を訪れ「水栓が一個しかない」と言い出しました。
施主は浴槽側と洗い場側に2つの水栓をイメージしていたようです。おそらくコストの安さで選んだと思われます。それと現場監督とあまり相談もしなかった様です。
施主支給をする場合は必ず現場監督、あるいは設計者とよく相談をし、確認してもらうことです。そして、納入時期や梱包されてきたダンボール等の処分はどうするのか、万一製品にキズや不具合があった場合の責任はどうなるかなどを確認しておくことです。ものにもよりますが、設備機器等の施主支給はあまりお勧めしません。
実例③・・・変更によるトラブル
設計段階で施主はトイレ内には手洗い洗面ボウルのみで良いと打合せしていました。工事が進み取り付ける直前になって、カウンター付の手洗い洗面ボウルに変更してほしいとお願いされました。当然設備機器の差額はお支払いしますとも言われました。しかし、カウンターを付けるとその分トイレ巾が多少狭くなるので便器の中心がずれるのです。
すでに排水管の工事は終了していて床の仕上げも済んでいました。これらもやり直さなければならないので追加金額は予想以上になりました。
施主はまだ大丈夫だろうと思って言わなかったようです。しかし、現場は進捗状況に関わらず前もって発注していたり、下地処理など表面には表れない工事を進めています。
図面だけでのイメージではなかなかつかめない所が、いざ現場を確認すると「あれ!」という箇所があります。とにかく何か考え事をしたら、遠慮せず現場監督に相談してみることです。そうすることで追加、変更によって出さなくても良い費用がかなり防げるはずです。
実例④・・・イメージ違いによるトラブル
2世帯住宅の新築現場でエアコンの露出配管によるイメージの違いです。
2世帯なので居室が多くなりますので2階からは3本の配管、1階からは2本の配管が見えてきます。工務店は隠ぺい配管を提案したのですが、費用やメンテナンスを考えて施主はホーム
センターに別途発注をしたのです。外壁と同色にすればそれ程目立たないといわれたようです。しかし、実際に取り付けが終わった後、施主はがっかりした様子であったと聞きました。
新築工事で追加変更によるトラブルもあるのですが、イメージや色についてのトラブルも多くあります。このあたりは経験値の高い専門家の考えを聞いたうえで判断するか、あるいは100%お任せするかです。お任せしますと言っておきながら、後でブツブツ言う施主がいますが、お任せするということは70%~80%ではなく100%任せるということです。
実例⑤・・・常識のズレによるトラブル
どこの業界でもあるかもしれませんが、業界の中にいると常識と思って施主に話さなくても当然ということがあります。
例えば、トイレや洗面室には照明器具の見積りが計上されているのに、リビングやダイニングは計上されていません。エアコンも計上しません。カーテンも形状によっては下地との関係があるので本来は事前に打ち合わせをするべきなのですが、取り付ける段階になって下地が入っていないので付けられませんという現場もあります。施主の中にはこれらは全て工事費に含まれていると思っている人もいます。
このあたりは工務店によっても見積りの考え方が違うので別途工事が何なのか、何が含まれ、含まれていないのかを確認し、全体予算を把握しておくことです。建築工事は含む、含まれていないで金額の巾が大きいのでより留意してください。
佐川 旭からのメッセージ
設計者、あるいは現場監督が施主に投げかける質問は、ほぼトラブルを防ぐ、またはコストに関する内容が多いと思います。「トラブルを防ぐ、またはコスト」という質問はやがては施主の住まいづくりの満足度を高める要因にもなっていくからです。
建築は斬新なアイデアを求められる一方、長く住み続けられる時間にも対応する必要があります。引き渡し後、住み始めてから仮に何か不具合があれば、すぐに駆け付けてくれる工務店を選んでおくことも大切です。工事途中何かトラブルがありずっと尾を引いていては、気が引けてすぐには駆け付けてくれません。
デザインやコストも大切ですが、信頼できる設計者、そして経験豊かな現場監督を選ぶことも大切なのです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。