家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
小さな土地で大きく暮らす
値上がり傾向にある地価
新型コロナの影響で下落が続いていた地価は全国平均で0.6%の上昇(昨年3月の公示地価発表)となり、都市部を中心に回復基調となりました。用途別にみても三大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)の住宅地は0.7%と急回復の傾向がみられます。これは地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)でも同じ様な傾向にあります。土地を購入して新築を考えている人にとっては、土地の面積を若干減らさざるをえない状況になるかもしれません。
そこで今回は、仮に小さな土地であっても「こんな工夫」で大きく暮らせる考え方やアイデアを紹介します。
空間を広げる基本の考え方
限られたスペースで、ここも、あそこのスペースもとなると全てが中途半端になる可能性があります。間取り計画では思い切った割り切りも必要です。まずは、次の5項目を基本としておさえておきましょう。
① 空間を立体的に使う
② ひとつのスペースを多目的に使う
③ 視覚的に広く感じられる工夫をする
④ スペースにメリハリをつける
⑤ デットスペースを上手く活用する
この5項目の中で「①空間を立体的に使う」に関しては、建築基準による緩和があるので、チェックしておきたいです。例えば、ロフトは天井高が1.4m以下であれば床面積には算入されません。また、仮に土地が20坪以下であれば建設コストはかかりますが、半地下も考えられます。住宅部分の床面積の1/3を限度に容積率には含まれませんので、さらに床面積を増やすことも出来ます。
その他の②~⑤については間取り、造り付け家具、色彩計画などの工夫で小さな家であっても大きく暮らすことが出来ます。例を取り上げていきましょう。
具体的なアイデア例
①キッチンは壁付けにしてリビング・ダイニングを広くする
キッチンは対面式ではなく壁付けにし、ダイニング側は作業台を設けてキッチンと高さを揃えると統一感がでます。その際、冷蔵庫や家電棚もダイニング側から見えない工夫をするとスッキリします。
②半屋外空間をつくる
寝室と浴室の間にデッキを設けると、浴室側からは坪庭的に見え、寝室にも光を届けることができます。できれば玄関からもこのデッキが見える工夫をすれば、玄関からの視線も広く感じることが出来ます。
デッキを活かした「抜け感」をつくる
③2階をリビングにして屋根勾配を活かした勾配天井とする
屋根の形を活かして天井に傾斜をつけた勾配天井は、通常の平らな天井よりも高さが出るので、住まいに開放感が生まれて魅力的です。さらにリビングと程よくつながるロフトをつくると、子どもの遊び場や書斎にもなり「+αの空間」が得られます。
④寝室は最小スペースにして、収納スペースを確保する
寝室は狭いほうが落ち着くという発想です。寝室を6畳程度にして、クイーンサイズのベッドを置き、その分ウォークインクローゼットを設けて収納をラクにするという考え方です。きっと身支度や整理整頓もラクになるはずです。
⑤吹抜けとスケルトン階段
2階リビングと勾配天井の相性が良いように、吹抜け空間とスケルトン階段もとても相性が良いのです。開放感と立体感を演出でき、シンプルなインテリアデザインであれば、よりアクセントとしての効果が期待できます。
⑥視線を抜く窓をつくる
開放感をつくるには視線の抜け感がとても重要です。特に狭小地であれば周囲3方向が囲まれていることが考えられるので、視線の抜け感を意識してつくることです。
⑦壁の圧迫感を和らげる「室内窓」を設ける
仮にリビングの階に書斎、キッチンの近くに家事コーナーを設けたりすると、机の正面には収納BOXや本棚を設けることが多く、どうしても圧迫感がでやすいです。しかしその正面下部に室内窓を設けることで、壁の圧迫感を和らげ、家族の気配を感じることが出来ます。さらに設ける位置によっては、光や風の抜け道になるかもしれません。
⑧色と素材の数を絞ったインテリアにする
インテリア空間はたくさんの色と素材を使うと、どうしてもライフスタイルの変化についていけないところがあります。むしろシンプルな色使いは、空間を広く見せ飽きもありません。スッキリとシンプルな空間にしたければ、色と使う素材の数を絞ることがポイントです。
⑨造作家具で空間に合わせる
設計をする側は間取りを考えますが、調度品であるダイニングテーブルやソファー、カーテンなどの選択は一般的には業務外です。(アドバイスはあります。)ハウスメーカーはインテリアコーディネーターが行います。しかし、時にはミスマッチな空間になってしまうこともあります。空間を広くスッキリと見せたいのであれば、やはり造作(特注)でつくったジャストフィットな家具を置きたいものです。
⑩洗面脱衣室を広くしてみる
敷地に余裕がないとリビング・ダイニングは広いスペースとして、階段・浴室・洗面脱衣室等を狭くしがちです。しかし洗面脱衣室は2~3畳程度を目安に広くとることで、日常の細々とした物が一気に整理されます。また、洗面化粧台の正面には大きな鏡を設置すると、空間が広く見えて楽しい仕掛けにもなります。さらには外部に面している壁であれば、目線と同じ位置に抜け感のある窓を置くことで、外とのつながりが感じられ開放感が得られます。
佐川からのアドバイス
小さな土地であっても大きく暮らすことは出来ます。それには物を増やしたら減らすことも同時に考え、生活力を高めた暮らしを実践していくことです。それがきっとライフスタイルの確立にもつながっていくはずです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。