家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
家相はどう考えればいいの?
家相とは
「今どき家相なんて考えていたら、使いづらくて住み心地の悪い家になってしまう」とか、「家相は単なる迷信に過ぎないんじゃないの」という人が殆どかも知れません。しかし、一方で、家相を気にして迷っている人も多くいるのも事実です。
あらためて住まいづくりにおいて家相とどう付き合っていけばよいのかを考えてみましよう。
そもそも家相は中国から奈良時代に仏教とともに伝わり、その後日本独自の発展をしてきました。特に江戸時代は庶民に向けた家相書が多く発刊され、明治維新まで15を超える家相の流派があったと言われています。したがって、これが本当の家相書というものがなく、それぞれの流派ごとに異なっていることが現在の姿でもあるのです。
家相と風水の違い
家相は中国から伝わった「陽宅(生きている人の建物や土地)風水」を日本の「神仏習合」の独自の世界観の中で日本人が発展させた教えです。
一方、風水は中国で生まれ、中国で育ったもので、儒教や道教を中心とした考え方です。
家相は風水から生まれて、宗教文化が全く違う環境で育ったので、風水が親で、家相が子の様な関係かも知れません。したがって、元々は同じような思想ですが現在は全く違うということです。
北東方向の表鬼門が気になる理由
家相の基本となるのが、方位別に良し悪しを盛り込んだ「家相盤」で住まいのどの方向に何を配すれば良いのか、何を配してはいけないのかなどが記されています。特に一般的に言われるのが、北東方向にある「表鬼門」です。この方向は日当たりが悪くジメジメとし、冬は寒い場所になります。そこで先人達は、「そこにトイレや浴室を配置してはいけない」と言ったわけです。また、北方位は神聖なものとされ、トイレなどの不浄物をつくることはタブーとされていて、仮にそこに配置すると、病気になる恐れがあるといった家相書もあります。
ただ、これらはあくまでも江戸時代までの生活環境、建築技術を前提にしたもので、現代であれば快適な場所にすることは十分可能だと言えます。
家相にはこんな言葉遊びも
家相書の中で北東には「南天の木を植えれば良い」とあります。これは“南天”を“難転”と捉えて災難を転じて幸せになれるという言葉遊びから来ています。また、同じように「庭の中心に木を植えてはいけない」というのもあります。これは囲まれた中に木を植えると“困る”という字になるからです。
このように言葉遊びや語呂合わせであっても、その意味を紐解くことで、住まいに対する自然の関わり方や心構え等に気付かされる点もあります。
アドバイス
家を建てたいと思った時、おそらく家族内に不幸なことや大きな悩みはないはずです。つまり、家づくりは人生の中でも最も絶頂期にあると言えます。そんな時だからこそ人間は迷い、誰かにすがるのかも知れません。しかし、仮に家相をチェックしたところで、家族内に問題は起きず、幸せな家庭が築かれるかというと、そうならないのが人生でもあります。家族の幸福は家にあるのではなく、やはり家族という人間関係の中にしかないのです。それを「家というモノ」でまとめているということなのです。ただ、幸福は保証できませんが、願うことはできます。私は家相を気にするより、むしろ願う場所を設けることをおすすめします。例えば壁の一部分に小さなニッチ(くぼみ)を設け、そこに家族の写真を飾ることで家族の日々のありがたさを感じることでも良いでしょう。あるいは小さな神棚をつくり、そこに家族の心を寄せて、子どもには道徳観を身につけさせることも一つの考え方です。
現代の住まいには祈る場所(神棚)や自然と遊ぶ場(床の間)はありません。現代風でも良いので、そんなスペースがつくられると心も和らぐのではないでしょうか。
「家相はこうあるべき」と考えないで、もっと柔軟に考えてよいのです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。