家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
住まいの心地よさは中間領域にあり
「中間領域」ってなんですか?
「中間領域」を一言でいうなら、内部空間と外部空間が混じり合う場所です。具体的には建物外部にあるものの内部のような場所(半屋外空間)と、建物内部にあるものの外部のような場所(半屋内空間)といえるでしょう。そして敷地環境によっても中間領域の作り方は変わります。
住まいの心地よさは、様々な要素があります。なかでもその敷地にしかない自然環境をどう住まいの中に採り入れてプランニングするかは、とても重要な設計の考え方です。快適な中間領域のつくり方を考えてみましょう。
中間領域で空間に柔らかさをつくる
日本の住宅は古くから、縁側や土間など内部としても外部としても使える空間を上手く取り入れて生活をしてきました。これらは中間領域としてだけでなく季節に応じて屋内の温熱環境をコントロールする役割も担ってきました。
しかしながら、現代の住まいは断熱性や気密性が向上し、温熱環境が担保されるようになったことで、魅力的なスペースづくりのために縁側や土間などを活かす傾向にあります。
中間領域をつくるために注意すべき5つのポイント
下記に注意すべき5つのポイントをまとめました。外構計画や植栽の位置、樹木の選定などにも注意しながら敷地全体を計画していくことが大切です。
①内部と外部のつながり
外部の開放性、内部の安心感や落ちつきを上手く採り入れた工夫をする。
玄関アプローチに植栽スペースを設けることで、動線に一呼吸をつくる。さらに室内のリビングダイニングから緑が見える工夫、プライバシーをつくる役割も果たす。
②使いやすさを考える
内と外のつなげ方はさまざま。用途に対応できるよう配慮するだけでなく、特に出入りのしやすさがポイントになってくる。
室内床とデッキ或いは庭とのレベル差を小さくすれば、室内外の連続性が増して広く感じられる。デッキなどの奥行き寸法は1.5m前後あるとより有効に使える。
③安心感をもたらす
内部での生活(食事など)を外部でできるように屋根や塀で囲むなどして、半屋外空間においても屋内で過ごすような安心感をもたらす工夫をする。
南側は人通りが多いのでプライバシーを確保するために、敢えて南側を閉じる。夏・冬の太陽高度を考えながら採光・通風も十分に検討する。
④開放感をつくる工夫
半屋内空間に通風、採光、眺望、動線などの屋外とのつながりをもたせる工夫をする。
土間空間を吹抜けと組み合わせると高さ方向に開放感が生まれる。その結果、屋内はより外的な雰囲気になる。
⑤開口部廻りの建具など
開口部の配置や大きさ、開閉方法などを工夫して、日射や温熱、視線、陰影などをコントロールする。季節に合わせた暮らしを楽しむ工夫を心がける。
窓台の高さと奥行き30cm程度の腰掛けをつくることで、窓辺はより身近なスペースとなる。
室内にいても緑を感じられるスペースをつくりたい。通風、温熱、視線、照明などに配慮しながらつくることは可能です。ただ、植えられる植物(ヤブツバキ、アオキなど)に制限があります。
佐川からのアドバイス
芸術家やデザイナーは「空間」という言葉をよく使います。もともと独立した単語が結合してできた言葉で、複合語です。
「空(くう)」とは天と地の間のように、虚ろでどこまでも広がっていく様で、「から」「くう」「そら」とすべて同じ字をあてています。
一方、「間(かん)」は門と月との合字で「閒」と書き、門の2段扉の間(あいだ)から月光が差し込んでいる様を表しています。
「うつろなあいだ」「すきま」を意味しますが、転じて度量の概念、すなわち空間における距離や時の区切りの明示として時間を意味しています。「1間(いっけん:1.8m)」「間(ま・余白)」「間のび」などがそうです。
このように日本人は「空」「間」に対して、時には鋭い感覚をもって今日まで生活を成り立たせてきたことがわかります。
昨今はコロナ禍もあり、何かと室内で過ごすことが多くなりました。あらためて「空」と「間」、そして中間領域といわれる「うつろで曖昧な空間」を考えてみてはいかがでしょうか?きっとそのスペースは心地よい空間をもたらしてくれるに違いありません。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。