家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
相談事例から学ぶ失敗しない家づくり
トラブルの主な原因はコミュニケーション不足と約束
本の執筆や雑誌の監修をしていると様々な相談を全国から受けることがあります。トラブルの原因に共通していることはコミュニケーション不足と口約束が原因のほとんどです。実際の相談事例を3つほど取り上げてみました。新築・増改築にかかわらず、これらの事例を踏まえて失敗しない家づくりを心がけてみて下さい。
失敗事例とアドバイス
相談事例①
現在持っている家具を配置したかったので、設計段階で壁の長さを1.5m確保の計画から、2.0m確保に変更してもらうように営業担当者に依頼しました。ところが、着工後に内装の打ち合わせで現場に行ってみると壁の長さは1.5mしかなく、現場監督に確認すると「そんな話は聞いていない。今からでは窓の移動もできないので出来ません。」と言われました。どうすればいいですか?
→アドバイス
契約締結時(設計段階)で設計図面上1.5mだった壁の長さを2.0mに変更することを依頼し、営業担当者が了解しているのであれば2.0mの壁をつくる義務があるでしょう。
しかし、ここでの問題は1.5m→2.0mに変更したことを「証明できるかどうか」です。
施工者は設計図面どおりに施工する義務を負っていますので、設計図面の内容が変更されたとの客観的な証拠(例えば設計図面の寸法を変更している書類資料や議事録、メール等)が無いと、設計図書の内容と異なる工事を依頼した証明は難しくなります。何らかの証拠があり相手に提示することによって、通常であれば是正してもらえることが多いと思います。そうした証拠が無く、かつ営業担当者も忘れているような場合にはかなり難しいと思います。仮にこじれて、どうしても我慢が出来なければ調停や訴訟を起こすことも可能ですが、弁護士の費用なども覚悟しなければなりません。
建築紛争の多くは当事者の合意が明文化されていないことに起因します。基本的に口約束は殆ど役に立たないと思っておくべきです。その点、メールなどのやり取りなどはとても有効です。
相談事例②
工事中に工事内容を変更したのですが、どういう点に気をつければいいでしょうか?
→アドバイス
工事内容の変更は工事請負者の義務内容の変更ですので、変更内容によっては工期の延長や請負代金の変更が必要とされる場合があります。したがって、そのような場合には発注者と工事請負業者が協議することになります。そして、その協議内容は書面によって定める必要があります。そこで工事の変更をする際の注意点をあげておきましょう。
① どこを、どの様に変更するかを具体的に示すこと
② できるだけ早い時期に施工者または設計者に伝えること。(すでに製品や設備機器、あるいは建材等を発注している場合があるからです。変更する場合、ここがポイントです。)
③ 変更は他の箇所に影響を与えることもあります。施工者との打ち合わせはもちろん、できれば工事監理者ともよく相談して決めることが望ましいです。
④ 変更内容が確定したら全体の工期の影響、更に請負代金に変更があるのかを施工者とよく相談する必要があります。当然その結果を文章に残し、共にサインをしておくことがポイントです。仮に後日「言った」「言わない」の争いになった場合、変更を指示したことを立証できなくなる恐れがあるからです。
相談事例③
工事中、隣地の人から「お宅の基礎工事の影響でこちらの地盤が沈み、建具の開閉が悪くなった」と言われた。施主にも責任があるのでしょうか?
→アドバイス
結論から言うと施主に責任はありません。仮に施主が特別な注文をして、それが原因となるようなことがあれば問題になります。しかし、施主が基礎工事に対して特別な注文を出すということは考えにくいです。
工事業者も軟弱地盤の敷地であれば、それなりの対策を講じて施工をします。とくに地下室のある工事で隣家への影響が考えられる場合は、隣家の建物調査をしたうえで施工を実施します。
失敗しないためには契約をしっかり確認
施工者は請負契約に定められた内容(主として設計図書に記載された内容)を履行すべき義務を負っています。この請負契約が成立するためには、民法上は必ずしも契約書を作成する必要はなく、口頭だけの口約束でも成立します。しかし、口約束で工事をお願いする人はいないと思います。建設業法第19条でもトラブル防止のために必要な事項を記載した契約書を作成するよう定めています。
工事請負契約書は家づくりにおいて最も重要な契約書です。契約には次の書類が必要になりますので、確認して下さい。家づくりは初めての人がほとんどです。専門用語や業界用語が多く使われるので、理解しにくいところがあるかもしれません。しかし、大きな買い物でもあるので、勉強しながらでもしっかりコトが進むよう努力して下さい。
一般的に工事請負契約では次の書類を確認しましょう。
① 契約書…
請負代金の額、工事着手及び工事完成の時期、支払い方法などを記入します。
② 図面…
配置図。平面図、立面図、断面図、電気・給排水設備図面など延床面積40坪程度の住宅で30~40枚(A3サイズ)の図面枚数になります。
③ 仕様書…
図面だけでは表現できない材料の品質やメーカー、施工の手順などの規定事項を文章や数値などで表現し、施工者に指示する図書で図面と一緒に綴じられます。
④ 工事請負契約約款…
工事請負契約書では示しきれていない、より詳細な条項が書かれた取り決めのことです。
⑤ 請負代金内訳書…
仮設工事、基礎工事、木工事、屋根工事等の区分ごとの材料の規格、寸法、数量、単価、金額が記入されています(見積書と同じ)。きちんと内訳書が出来ていると、工事変更の際(数量増減)にスムーズに工事請負金額の変更が行うことができます。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。