家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
現代の住まいは柱が見えない?
現代は柱が見えない家づくり
木造住宅の壁の造りには大きく分けて、「真壁造り」と「大壁造り」があります。
わかりやすくいえば「柱が見える真壁造り」と「柱が見えない大壁造り」です。
そして日本の住まいの原風景を作ってきたのは真壁造りです。
しかし、戦後は真壁を構成していた土壁で仕上げる家が少なくなり、ボードや合板などで柱を壁内に納め、ビニールクロスや塗装で仕上げる家が多くなってきました。
これはただ単に経済的な合理性ばかりではなく、大壁造りの方が防火・耐震などに対応しやすく、気密や断熱などの性能も高めやすいという理由があります。
さらに壁を表現するデザインの自由度も広がるという魅力も現代の生活スタイルに支持されているのです。
一方、柱が見えないということでどんな樹種の構造材が使われているのかが気になることです。一般的に柱が見える造りの頃はほとんどが国産材料でした。しかし柱が見えない造りになってからは輸入材そして集成材へと切り替わってきたのです。
柱が見えないからどんな木でもよいということはありません。逆に見えないからこそ耐久性の高い木の選択をしなければならないということです。
構造材は赤味を使う
法隆寺の丸い柱はヒノキの巨木を割って丸く削ったものが使われています。そして赤味材が使われています。
赤味材とは、木材内部の辺材に囲まれた色の濃い部分のことで、耐久性があり美しい材です。一方、辺材部は白太と呼ばれ腐りやすくシロアリに弱い材です。
日本の社寺仏閣など伝統的な建築には、この赤味材の特徴を活かした使われ方が多く見られます。
リフォーム工事の際、集成材の柱が使われている住宅に出会うことがあります。
集成材には、*ラミナに白太が混ざるため、材内部にまで腐朽が進んでいることもありました。
昨今は軒や庇のないモダンな家づくりも見受けられますが、日本は雨が多い国なので雨漏りが心配されます。また、断熱・気密工事の不備による壁体内結露も心配です。
柱の見えない構造であれば、国産材でスギの赤味材を使うことをおすすめします。
*ラミナとは集成材を構成する挽き板、あるいは小角材のピースのことです。
芯持ち材と心去り材
一般の住宅には3.5寸(10.5センチ)の角柱を使います。丸太の直径でいえば約16センチほどです。
これらの丸太を使うのであれば必ず年輪の中心(髄ずい)が真ん中にあります。これを芯持ち材と言います。心去り材は大経木を4等分にして使うので中心の髄はもっていません。
一般的に芯持ち材のほうが強いというイメージがありますが、強度は変わりありません。むしろ性能面でのバラツキは心去り材のほうが少ないというデータも出ています。
芯持ち材は割れ等を防ぐため高温のドライングセット(高温乾燥)をかけなければなりませんが、心去り材ならその必要はありません。その結果、内部割れの心配はなく構造材に優れ、化粧材として見せるのにも適しているのです。たとえば宅内にある登り梁や梁を意匠的に見せるのであれば、集成材や芯持ち材でなく、心去り材を選択するということです。
長寿命の家づくりは気候風土を忘れないこと
日本の民家がなぜ平気で100年を超す耐久性を保ってきたのかといえば、高温多湿の国で柱を見せることで壁内に湿気を溜めなかったからです。勿論これは床下、小屋裏にも同じようなことがいえます。とにかく風通しの良い家づくりを心がけてきたのです。
時代の流れと共に住まいに求められるもの、さらには工法の進化・発展など住まいづくりも常に変化していきます。
しかしながら大切なことは、その地域特性を理解し素材を活かしながら自然の流れに沿う考え方です。長寿命の家にはすべてこの考え方が通底しているように思われるのです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。