家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
ありがちな間取りの失敗ワースト10
ありがちなのはこんな失敗です。
新築でも建て替えでも、家づくりにおいては、これまで自分が体験して得られた不満点が大きなテーマになります。家に関しては憧れと同時に、人生の中で何度も経験する事ではないので、イメージしづらいところがあります。
特に間取りについては、十分考えたつもりでもいざ住んでみると「ここはこうすれば良かった」「収納スペースをもう少し確保しておけばよかった」など、後で気になるところが出てくるものです。
間取りに関しての失敗例を調べてみると、多少項目の変動はありますが、何十年もそれほど変わることなくワースト10に挙げられるものが次の項目です。
・配線の失敗
・収納の失敗
・広さの失敗
・明るさ、温度の失敗
・窓の位置(視線)の失敗
・音・臭いの失敗
・家事動線の失敗
・ゾーニングの失敗
・サニタリー位置の失敗
・ドアの位置と開閉方法の失敗
配線、収納、広さの失敗は常に上位です。
近年ではコードレスの家電やリモコン操作による照明スイッチの切り替えができるものも増加していますが、扉を引き戸にしたことで近くにコンセントやスイッチを設ける壁が無くなってしまい、扇風機やストーブなどの家電が置きたい場所に置けないといった、残念な結果になる例がよくあります。
コンセントやスイッチは図面の中に表記はするのですが、やはりこれらは実際に生活を始めてわかることなので、生活シーンを思い浮かべて、住み手自身がしっかりイメージしてチェックしなければならない項目なのです。
室内の熱環境についても、設計者の考え方を聞き、エアコンの予備コンセント等を設けておくと良いでしょう。
ちなみにコンセントの数は床面積40坪に対して35個くらいで、多くても40個を目安に考えておくと、生活する上で困ることは少なくなるでしょう。
収納の失敗
収納のポイントとして、一番始めに考えるべきことは、床面積よりも壁面積、つまり出し入れする面の広さで、収納量が決まるということです。そして、物を使う場所の近くにそれを収納するスペースがあるのか、さらには収納内部の高さ・幅・奥行きが、収納したいものに合っているかなど、当たり前のことをきちんと検討しておくことが大切です。
しかし、検討し過ぎてしまったがために、食品庫内の自由度がなくなってしまい、物を床に置いて使いづらくなってしまった例もあります。
多少なりとも生活の幅を考慮することも忘れないようにしておくことが大切です。
収納する物は子供の成長や生活スタイルの変化に応じて増えたり、減ったりするものです。物が増える時期は子供の成長と共に比例していきます。ロフトなどを設けて一時の保管場所として活用することも考えておくと良いでしょう。
広さの失敗
一般に新築の際には、ダイニングは○畳、寝室○畳など畳数で広さの感覚を掴み、この広さを確保しておけば大丈夫だろうと想定します。
家の完成が近づいてくると、今まで使っていたダイニングテーブルや寝室のベッドなども、思い切って新品に替えてしまおうとされる方もおおいのですが、気に入って新しく入れようとした家具が、新築の部屋に収まらず、「あと○cm広げておけばよかった」「窓の高さがあと○cm高ければよかった」と初めて気がつき、後悔してしまうのです。
図面に表示されている寸法は通常、壁芯~壁芯です。壁の厚みを考慮すると実際の有効寸法は10cm以上狭くなるのです。ブラインドではなく、カーテンの場合は溜まりもあるでしょう。実際図面には現れないので、そこを通るたびにカーテンの溜まりに体が触れ、気になるかもしれません。
また、デザイン性で好まれる輸入家具は、輸入家具は、規格が日本とは異なるので、室内の寸法を確認してから購入すると良いでしょう。近年は様々な趣向のインテリアを重視する傾向にあり、気に入った家具を選んでリフォームをされる方が多くいますが、デザインだけでなく、サイズもよく確認をしてから購入をすることをお勧めします。
目に見えないところが失敗しやすい。
配線、収納、広さ以外の失敗はどちらかといえば目には見えないものです。
具体的には「光(明るさ)」「熱(温度)」「音」「臭い」「人の動き(動線)」などです。
一般の方が多少なりとも知識をつけて、ある程度理解はできるかもしれませんが、やはり、ここはプロの力を頼りましょう。
なぜなら、この項目は「住み心地」にとても大きな影響を与えるからです。
特に光や熱環境は快適な生活を支える上で、とても重要な項目です。
家づくりは単なる商品を買うわけではありません。自分の人生観、家族観、さらには倫理観を手に入れるものです。
できればそういったことを対話できる建築家と一緒に、家づくりを楽しんでいくことが理想です。完成後にはきっと、愛着を持って自分だけの家を育てていこうとする心も生まれているはずです。
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。